双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

|日々| の検索結果:

寒空とポッケ

|日々| 「厳冬」と云う言葉は耳慣れしないが、どうりで寒い訳だ。 昨晩より、床の中に湯たんぽを使い始めた。ついでにと、 仕舞っておいた膝掛けも取り出すと、途端に部屋の中が 寒い季節の様相となる。冬支度が整うと、何故だか、 夜更かしがしたくなって困る。日中も風がひどく冷たく、 近所まで買い物へ行くのに、去年に買い求めた、 分厚い紳士ものカーディガンを羽織って出たのだが、 買い物バッグを垂らした手先が、道中すぐにかじかんで、 たまらずポッケに差し入れた。首元から冷たい風が入り込み…

去る雨 残る雨

|日々| |本| 今日も今日とて雨が降り。 客席の配置替えしたのを、一夜明けてからしみじみ、 明るい中で改めて見てみると、何故だろか。 昨晩見たときよりもずっと、しっくりくる。 相変わらず雨は冷たく、降ると止むとを気まぐれに 繰り返しながら、時折お客さんを挟んで、午後は のっぺり起伏無く、とつとつと過ぎてゆく。 文庫本など並べてしつらえた、新しい独り席に座り、 とっくりの襟首伸ばして、膝掛け掛けて。 たっぷり淹れた珈琲など頂きつつ、電球の下、 本の頁めくる。少しくぐもった鍵盤…

雨の日の人びと

|日々| |音| 郵便受けから新聞を取り出すにも、傘をささねばならぬ。 強い風に背中を押された雨は、勢い良く、寒々。 こんな土曜日は、大抵が緩やかに刻の進むものだ。 数こそ多くは無いけれど、雨の日に訪れるのは、 雨降りにだけ許される憩いを知る人びと。 本を読む人。物思いに浸る人。控え目なおしゃべり。 私は今日、珈琲を淹れ、紅茶を淹れ、パンを切り、 カップを洗い、台所に立ちながら、心の中でそっと、 お礼を云った。雨だからここへ来よう。 そんな風に思ってくれた、憩う人びとに。 […

季節

|日々| |本| きのこ採り名人の叔父より、山のきのこは、 ヌメリササダケとアミタケの二種類。 掃除して塩水に浸けた後、大根、豆腐、茄子とで きのこ汁をこしらえる。とろりとしたきのこ汁から 湯気が立つと、ふんわり山の良い香りが。 ふうふう云いながら、椀にふたつも頂いた。 辺りが薄暗くなって、看板の電気を付けるのに 表へ出ると、すっかり肌寒くなった外気に、一瞬 ぶるっと身震いする。道路を挟んだあちら側を、 ふと眺めやれば、Tシャツにミニスカートと云う、 夏の装いの若い女性が、携…

長袖歳時記

|日々| |音| |本| 肌寒い秋雨のそぼ降る木曜日。 起きてすぐ、朝の空気に季節の匂いをかぐ。 箪笥の中から、きつね色のコーデュロイのズボン、 長袖のシャツと、少し厚めの靴下を選んで出すと、 ほんの一瞬。秋の鼻先に手が触れた気がした。 重ね着。セーター。ハシバミ色。 革靴。鉛色の空。こっくり珈琲。 日暮れは早まり、夜が段々長くなってゆく。 [Some Pieces of Rainy Thursday]

空箱夜間飛行

|日々| |音| 秋は何処かに隠れてしまったのだろか。 輪切りにして面取りした大根を、半分からすぱんと、 真っ二つに切ったよな月を見上げて居ると、 鈍い疲れが降りてくる。思考がが止まる。 あんまり気忙しかった昨日と比べて、緩い緩い 今日一日との間に、妙な違和感が横たわり、 何だか手持ち無沙汰な、気の抜けた風な心持ち。 洗濯物を畳んで居ると、夜風に紛れてピアノの音が 聞こえた気がしたけれど、恐らく気のせいなのだ。 [木曜日の一枚] ナット・キング・コールをしのんで ひばりジャズ…

置き土産の金曜日

|日々| |音| もはや暴力とも呼べる程の、荒くれ台風様のお通り。 建屋は断続的に揺さぶられ、雨は容赦無く殴りつける。 結局は、まんじりともせぬままに夜明けを迎え、 ほんの僅かの間ばかし、浅い眠りに身を横たえた。 嵐の過ぎ去った後には、不快指数のすこぶる高い、 むせかえるよな暑さばかりが、有難くも何とも無いのに、 置き土産とばかりに残され、はた迷惑な話だ、と うんざりしつつも、金曜日を金曜日として過ごす。 [金曜日の一枚] Everybody Digs Bill Evansア…

Time after time

|日々| |音| 木綿のカーディガンを羽織る、肌寒い日曜。 空は少しだけ遠くなり、続く季節を手繰り寄せる。 取留めの無い、ゆるりの午後の流れ。 薄く曇った空が、夕刻の蒼に覆われ始める頃。 誰も居なくなった店内で、絵空事の音の物語に 耳を傾けつつ、こっくりとした珈琲を一口。 何と静かで、何と穏やかな夕刻。 [日曜日 静かの一枚] Charmed With Verdiアーティスト: Verdi,Yasuda,Kahle出版社/メーカー: Winter & Winter発売日: 2…

湿度

|日々| |音| 残暑の日曜日。つい数日前に感じた筈の 秋の気配は、一体何だったのだろ。 まとわりつくよな湿り気を帯びた熱風。 身体中の力が離れてゆくのを、だらりと感じながら、 夜の訪れるのを待つ、平坦で永いばかりの午後。 窓を隔てたアスファルトの路面から、溶け出したよにして 陽炎がゆらゆらとして居るのを、ぼんやりと眺めやる。 冷房から逃げ出して、台所に越し掛けると、 何処からとも無く汗がじわり、流れてくる。 こんな風な気だるさに、何考えるでも無く、 ただ寄り掛かるだけの心地…

眠ると言ってはドアをあけ

|日々| |猫随想| 夜になると、ときどきやって来る、 白くてちいさな訪問者。 今夜もやって来た。 この前は、玄関のちょっと手前。 その前は、も少し離れた花壇の辺り。 来る度に段々近付いて、今夜は丁度 ドアを開けたところに、大きな目玉して。 外に出て近付いたら、ちょっと離れて、 Aちゃんが放ったエサ食べた。 白い毛の中に、ちょっとのブチ。 君は何処の子だい? 何処から来るんだい? いつだったかな。 雨の日にポーチで 雨宿りして居たのは。 窓から覗いたら、枕木にちっちゃな足跡が…

矢車菊の紫色

|日々| |音| 夏を思わせるに充分な一日に、空気が 澄んでいれば、尚のこと心地良い。 そんな折、知人より一本の電話が届き、 思いがけぬ風景を目にする事になった。 くっきりとした空。黄色い太陽の周りを、 まあるく囲むよにした虹の輪は、今までに 出遭ったことのない、不思議な眺めで、 額に両の手をかざしたけれど、眩し過ぎて、 それでもなかなか直視できない。幼い頃、 日食を見る為に、溶接用のマスクをかむって いつまでも眺めて居たのを、ふと遠く思い出す。 虹の輪は、それから暫くの間続…

日曜日の置いていったもの

|日々| |本| 朝から強い雨は続き、午後には雷も。 三時近くまで、誰一人訪れることなく、 ただただ、刻ばかりがのろのろと 過ぎてゆくのが、俄かに信じ難く、 まして、滅多に在ることでは無いし、 ちょっとした屈辱にも思えた。 空白を埋めるべく、掃除だの片付けだの、 やるべきことを、全てやり尽くした後で、 倦怠感だけが残る。確信めいた予感。 今日はもう、このまま終わるな・・・。 ますます酷くなる雨足を横目に、 午後四時。店を閉めることにした。 人生に、無駄なことなど一つも無い、 …

Giornata di ozio...

|日々| |音| |本| 巷では連休が始まったせいだろか。 車やバイクの往来が頻繁で、店は 昼前から一時活気づくも、午後になって 俄かに山の方が、どんより厚い雲に覆われ 始めると、間も無く、雷鳴と共に大粒の雹が、 バラバラと大きな音をたてて降ってきた。 やがて雹は雨に変わり、午後は途端、 ひっそりとした静けさに包まれる。 こんな天気の日に読むのは、須賀敦子。 全集の第七巻は、日記の部分を拾い読みする。 静けさは刻が経つにつれ、やがて季節はずれの 冷ややかな空気を伴って、帳を下…

Peace Piece

|日々| |音| 日々のささやかな積み重ねは、未だ、 大きな実を付けるには至らないが、 少しずつ、本当に少しずつゆっくりと、 けれどもそれは、確かに育って居る。 人知れず、そんな手応えを感じた日には、 幾度と無く繰り返される不毛にも、恐らく 何かしらの意味は在るのだ、と、 小さな希望を心に灯すことが出来る。 それはもしかすると、誰かの悪戯で、 明日にはまた、いつもと同じよに 気落ちすることになるかも知れないけれど。 それでも良いさ。毎日は新しい。 [土曜日の一枚] Every…

独立のミクロコスモス

|日々| 暦の上では春に変わり、本来の意味での冬は とうとう訪れ無かったよに感じるけれど、 今日のこの日曜日が、上着の要らぬ陽気でも、 未だそれが、俄かに信じ難い気もする。 山の稜線がぼんやりして見えるのは、 果たして、春霞の仕業なのだろか。 窓辺の鉢植えに、青い水差しで 水遣りをしながら、ふと気まぐれで この冬を振り返ろうと試みたけれど、 鉛色の空や、首元からすうっと入ってくる 冷えた冬風の記憶は、どうも掘り起こせず、 何故だか妙に寂しい心持ちになる。 キッチンから、パンの…

Un jour d’hiver...

|日々| 日々、想うことは多い。 些細なことから、途方も無きことまで。 そして、その中で出くわす様々に、 時に、仕合せな心持ちにさせられたり 或いは、落胆させられたりもする。 去年よりずっと暖めて居た考えを、 ひとつひとつ形にしてゆく作業と ここ数日間、向き合って過ごして居たのだけれど それらが少しずつ現実のものとなると、何だか 久しく感じたことの無かった、充足と云うか、 満ち足りた心地が、肩の辺りから全身へと ゆっくりゆっくり広がってゆくのを感じた。 この想いが、良い空気を…

除夜の鐘を聞きつつ

|日々| 本日より二日まで、三日間の休業。 大晦日の今日は、母方の祖父の命日のため、 昼前に墓参りに出掛ける。親類皆で昼食を 済ませた午後、甥っ子をベビーカーに乗せて、 一人で実家近くの本屋まで散歩する。 道すがら眠ってしまった甥っ子を、できるだけ 起こさぬよにして、ゆっくり車を押しながら 年の瀬の空気を、すうっと吸い込む。 本屋で用を足してから、目と鼻の先の リサイクルショップなど冷やかして居ると、 いつの間にやら、甥っ子が目を覚まして居た。 帰り道、私は恐らく何かの鼻歌を…

青の帳

|日々| |音| 雨の日曜日に、冷え冷えとした空気の 頬をすべる感触は、何故だか心休まる。 全てのものがまるで、在るべき規律、 在るべき要素でもって憩いを導くが如く、 今日と云う一日、日曜日と云う一日の形を 少しずつ積み上げてゆく。 昼頃から重たく広がる灰色の空が、 夕刻近くなって、不意に美しい情景を見せた。 ひどく忘れ難く、小さな感嘆を伴う色。 それは、山の方からすうっと降りてきて、 景色の輪郭をそっとぼかすよな霧と同化して、 窓の外の全てを包み込む、仄暗く透明な青。 ひょ…

野菊とマッチ箱

|日々| |音| 寒風に、瞬間身をこごめる朝のひととき。 ふと起こした目線の先の紅葉は、 例年ほどに色づきが良くないらしく、 何処も彼処も、赤茶けてくすんで居る。 独りのお客の、いつになく目立った午後、 嗚呼、こんな心地良い静けさが、いつも ここに在ったなら良いのに、と とぽとぽ珈琲を淹れながら、秋から冬への変わり目に 少しだけ心馳せて、すっと息を吸い込む。 [A piece of Saturday afternoon ] Trailer Parkアーティスト: Beth O…

十月浮遊

|日々| |音| |本| 何やかやで、もうすぐ今月も終わりか…。 と、夕暮れる空など見つめて、独り言つ。 何処ぞで貰ったかは分からぬが、 背筋の辺りに、ぞくりと悪寒を感じたものだから、 熱く沸かした風呂に浸かって、身体の冷めぬ内 手当たり次第に着込むと、心無しか落ち着く。 起伏の少ない、平坦な月末の一日の印象は 決して、満ち足りた心地では無いけれど、 大切なことは案外、本人の気付かぬところで、 ひょっこり見付かるものだ。 [土曜日の一枚と一冊] Piano Musicアーティ…

Karl e la luce bianche

|日々| |音| |本| 雨だれは、次第に勢いを増し やがて、本格的な雨へと姿を変える。 けれど、肌寒い秋の雨は そんな一日を愛する人々へ 無意識に足を運ばせるよな、控えめで 不可思議な効力を作用させる。 ひっそりと。おごそかに。 うっすらと線の浮かんだ白い帳面の上、 自身の走らせるペンの音が、静かに篭る。 ふと気配を感じて、外に目をやると、 紺色の夜空に雨の糸は、既に無く、 きれいな三日月が、ぼうっと光って居た。 [雨降り水曜日の一枚] Selenographyアーティスト…

うっすらとした水平線

|日々| 台風接近中につき、午前中から凄まじい豪雨。 にもかかわらず、我が家はお墓の除幕式。 ずぶ濡れになりつつも、無事終えることができた。 天気は生憎だったけれど、亡き祖母が ようやく、居心地のよい新居に収まった事が 何よりと思う。夕刻になって、こちらは健在の 母方の祖母と叔母の二人に、敬老の日の 鉢植えを届けにゆく。雨はすっかり上がり、 空は美しい菫色へと変わって居た。 路地の家々から、夕飯の匂いが漂う。 雨上がりの道端に、キジトラの猫が一匹。 |蹴球| カンピオナート第…

Coffee stains on a paper

|日々| 朝、狭い部屋の中で 掃除機をかけて居ると、何だか 同じところを、ぐるぐる廻って居るだけ のよな気がしてくる。 全ての窓を開放し、未だ 冷ややかさを幾らか残す、 朝の空気を通すと、私を暫し捕らえた、 ぼんやり取りとめの無いものは、 いつの間にか、消えてしまって居た。 平穏過ぎる程に、平穏な午後が とつとつと過ぎた後、夜の帳が降りて来る。 日々の中に、時折持ち込まれては 残される、負の足跡。 新たな一日が始まる頃には、また、 消えて無くなってしまうだろ。 小さき変化に気…

帰らなくてもいいのだけれど

|日々| |音| 晴れたり曇ったり。 近頃の天気の忙しさに比べたら、 今日一日の、全く暇なことよ。まぁ、 連休翌週の日曜なんて、こんなものさ。と 窓硝子をきゅっきゅと磨き、 草花の手入れなどする。 恐ろしく単調な日々の中に、ふっと 顔を覗かせる、ささやかな喜びを、 心の何処かで待ち望む日曜日は、 結局のところ、何かの訪れることも無く、 かと云って、悪しき出来事の 起こる訳でも無く。いつかと同じよに、 のっぺりと平坦なまま、過ぎてゆく。 さてと。明日のお休みは 映画館へ行くとし…

ラジエータの孤独

|日々| 雨降りに加え、寒々とした一日は、 休日と休日の間に挟まれた、 不運な曜日の持つ、何処か捕らえどころの無い ざらりとした手触りの、余韻だけを残す。 昨日、取り替えたばかりのカーテンが、 今夜の寒さには、ひどく気の毒に思え、 虚ろな気配にふと、心を留めれば もう、四月の奴は、其処に居なかった。

湿気た紙袋の中のライ麦パン

|日々| 先日の休日には、近くの山まで出掛けて 数年ぶりに、山へ登ってみた。 新旧合わせ、幾つか在る登山口の中から、 いちばん古く、比較的険しいのを選び、 日頃の緩い生活で、すっかり鈍り切った 己が体に鞭打ちながらの、片道約一時間。 愛煙家の哀しき性か、息が上がって仕方ない。*1 それでも一旦、頂上に着いてしまえば、 例え様無き清々しさに、疲れを忘れる。 やはり山登りは好きだなぁ、としみじみ。 これからの季節、天気にさえ恵まれれば、 月に一度は登ってみるのも、良いかも知れない…

Somewhere in Between

|日々| |音| 肌寒い土曜日。けれど、土曜日は好きだ。 土曜日の持つ色、感触、響き、温度。 今ではもう、一般的な曜日軸から 遠く離れた所に、こうして辿りついて しまったけれど、それでも今もって、 子供の頃感じた土曜日の感覚からは、 どうやら、抜け切れないで居るらしい。 ようやく桜も咲き始め、見物帰りの人々で、 午後の店内は、静かに賑わう。 山肌の所々に、淡い色した薄桃の 桜の島々の、ぼうっと浮かんで居る様は、 何とも美しいので、暫し、見惚れてしまう。 何想う、四月。 誰かの…

ああ、なんていう家なんだろ。鼻をかむにも命がけだ

|日々| 日中こそ陽も差して、幾らかは しのぎ易いか、と思われた 本日金曜日。のんびり構えて居たらば、 午後になって、空はうっすらと 灰色雲を携えて、風も出てきた。 雪でも降るのだろか・・・。 ゆるゆると刻は進む。夜ともなれば 当然のよに、冷え込み厳しく。 用心のため、止めてある筈の 換気扇が、風に煽られて 不穏な動きをする。ふむ、 二月の奴め、 ついぞ本性を現したか・・・。 釣り下がった、感触の系譜。 気にも掛けぬ、一つの退屈。 鼻っ柱をすり抜けた。 叩く叩く。 何処も彼処…

迷走階段誰かが登る

|日々| |音| 暦がじき、変わろうとして居る夜。 表では、突風が騒ぎ出す。 気配を感じて居るのだろか。 師走の気忙しさは、もう間も無くして 訪れることだろう。けれども 一年を振り返るには、まだ気が早い。 何を想い煩うでもないけれど、 この、云う術無き虚脱感は 拭いようにも、拭い去れず、 肝心な部分の、表層だけをなぞって うつらうつら、輪郭をはぐらかす。 紺色のピーコート、深緑のカップ。 其処に、私の探す冬の感触が 横たわって居るだろか。 青と白の、縦縞模様に縁取られた 人っ…

さすらへどさすらへど

|日々| |音| 窓から見える山の木の、所々が ほんのりと色づいてきて居る。 皆の眠りに就いて居る間、 葉脈の中の糖分が、人知れず 変化を及ぼして居る様子など、 ふと、思い浮べたりする。 午後の西日が差し込んで、店内を やわらかな色で、包む頃 ようやく、珈琲を淹れて一息ついた。 下校時刻の小学生たちが、 通りを横切り、手に持った袋を 振りまわす姿など眺めるうち、 あっと云う間に、日はかげってゆく。 橙色した、魔法の如きまどろみは、 つかの間の幻のよに、 終わりを告げる。 [本…

<