双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

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沖縄再訪(4)

|旅| |写眞館| ■牧志界隈〜帰途 旅先でしばしば訪れる思いがけぬ出会いと云うのは、後に忘れ難いものである。 +++ 桜坂の辺りから牧志の商店街へ。 市場中央通りを中心に、縦横網の目のよに張り巡らされた大小様々の商店街は、其々に表情も客層も異なるのが興味深い。そして、それら商店街同士も無数の抜け道やら、すーじぐゎで繋がって居るから、まさしく巨大な迷路である。しかし、自ら迷うもまた愉し。 ◆◆◆ と或る店の前で写真を一枚撮り終え、さて。ここから何処へ進もうかしら、と腕組みしい…

沖縄再訪(3)

|旅| |写眞館| ■三日目:恩納村〜琉球村〜安里界隈 最終日。小雨まじりの朝、恩納村の宿を出立したバスは、黒糖工場や琉球村など見学の後、那覇市内へ移動し、大変に豪奢なDFSへ立ち寄るも、そうした類に凡そ縁遠い私は、只時間潰しに困ってしまう。同市内の昭和な土産物センターにて昼食を採り、鍾乳洞見学のオプション組と自由散策組とに別れるため、後者は午後一時半頃に県庁前で下車。午後五時に再びここへ集合して合流し、一路那覇空港へと向かう寸法である。 +++ 雨上がり。読谷の琉球村へ。 …

沖縄再訪(2)

|旅| |写眞館| ■那覇市内〜読谷村〜恩納村 午後一時半頃。裏通りから人と車で賑わう国際通りに出て、120番のバスへ乗り込み国道を北上。やちむんの里を訪ねるため、一路読谷村へと向かった。前回同様、路線バスに揺られ、流れゆく風景をぼんやり眺めて居ると、心地良い眠気がとろとろと押し寄せてくる。那覇の中心部から親志入口の停留所まで、所要時間は凡そ一時間程だが、道路の混雑如何によっては多少の遅れも在る所為なのか、停留所には”バス時刻表”では無く”バス通過予定時刻”と書かれてあるのが…

沖縄再訪(1)

|旅| |写眞館| 地元の組合の慰安旅行で沖縄を再び訪れる機会を得、去る日曜から三日間、冬も暖かな南国へ出掛けて来た。組合の旅行だもので当然ツアーの団体旅行であるけれども、二日目はハードな旅程から独り抜け出すことが叶い、那覇市内をぶらぶらしてカレーを食べたり、青空珈琲を飲んだり、路線バスに乗っかって読谷を訪ねるなどし、最終日の三日目にはオプションの鍾乳洞見学には参加せず、那覇市内の自由散策を選択。其処で又、思い掛けない出会いに恵まれたりと、実に有意義な沖縄滞在となったのであっ…

独立記念日の夜、自転車に乗って花火を見た。

|旅| |回想|*1 ダウンタウンでサンドウィッチを食べ、コロラド川にかかる橋を渡った。7月4日。インディペンデンスデイ。ハウディ!ボンネットを星条旗で覆った車から手を振ったのは、日に焼けた銀髪の女性だったろうか。滞在した夏休みの学生寮は一泊5ドルで、帰省しない学生たちが少し残っていた。夜に花火があがるの。4thストリートの公園から、よく見えるわ。ショートヘアーの似合う、そばかすだらけの小柄な学生が教えてくれた。君も一緒に行かない?あどけない顔に口ひげを生やしたもう一人は、ペ…

1996

|回想| |旅| 「Bって、寂しい奴なのよね。きっと」 彼女はそう云った。その夏に知り合った友人Bは、一つ歳上で、私に意地悪だった。十のうちの七くらいは。他の人(特に女性)には殆ど無差別にやさしかったが、私には素っ気無く、話し方はいつも意図的な謎かけみたいで、大抵分かり難かった。私が英語を母国語としないのを、承知の上でのことだ。Bの知らない友人らと会ったり、出先に誰かと気安く話したりすれば、帰り道には必ず嫌味ばった、意地の悪い物云いをされた。たかだか一つしか違わぬ程度で、いっ…

陸前松島へ行って帰って来た

|旅| 常磐線と仙石線を乗り継いで、宮城県は松島まで行って来たよ。どうして松島かって、別に松島でなければならない理由など何処にも無いのだけれど、18きっぷ最後の一枠に相応しく、今回はひとつ、真っ当な景勝地なんぞへ出掛けてみよう、と思った訳ね。考えたらこの夏は一度も海へ行かなかったし、どうせなら海が良いと云うので、最初に思い浮んだのが、たまたま松島であっただけのことでさ。夏休みとやらも終わって一段落した頃だろうと。それで寝惚け眼のまま朝の電車に乗り込んで、一路北へと向かったのだ…

先生の夏休み阿房列車

|小僧先生| |旅| Y氏のご好意により、18きっぷの残り二回分を送って頂いた。時刻表に路線図を眺め考えあぐねる内、其処へふと、先週の小僧先生 「遠くへ行きたい」 発言を想い出し、さすれば是を使わぬ手はあるまい、ぽんと膝を打つ。そこで如何様にしたものか。程好く遠く、乗り換えを含み、日帰りで、夕飯刻前には帰って来ることが可能であり、しかし何よりも、新幹線の停車する駅であることが肝心だ。何故新幹線なのかと云うと、それが先生のご希望だからである。新幹線と距離から考えると、やはり小山…

川のむこう側には何があるのだろう。

|旅| |回想|*1 マルディグラの喧騒の去った後も、ニューオリンズから幽霊たちの幻影に似た、気だるい痕跡が消えることはない。滞在の終わり、蒸気船に乗った。ケイジャン・クィーン号。ミシシッピの川面を渡った風は、南部の湿り気をふくよかに抱く。ねえパパ。川のむこう側には何があるの?ああ、あれはまた別の町だよ。デッキを通り過ぎる親子の会話が、汽笛に溶けて遠のいた。少女のサンドレスは淡いグリーンだった。アルジェ。対岸の小さな町は、まるでいつからか時計の止まったまま、今もまだ長い昼寝の…

帰れないから帰らない

|戯言| |旅| 今、無性に青森へ行きたい。行きたくて仕方が無いが、 是をどの様に考えたところで、無理なものは、無理。 夏を逃せば、次回の18切符は冬、或いは春となり、 しかし、恐山の開山は五月から十月の間であるから、 折角青森まで出向いても、恐山へ入れぬのではやはり 醍醐味に欠ける気がする。どのみち近々が無理ならば 勝手の旅程でも仕立ててみるか。と、時刻表を傍らに、 いつもの暇潰しに興じることとした。はてさて。 二泊三日で、何とか無事帰って来られるだろか。 時刻表をお持ちの…

想ひ出写眞館:沖縄篇(2)

|旅| |写眞館| [読谷〜牧志] 読谷へ向かうバスは、時折、とろりとした昼寝のよな車窓を見せて。 那覇より約一時間揺られて降りた、読谷村は親志のバス停。 おおらかな南国風情です。 やちむんの里到着。 なだらかな起伏に連なる登り窯。 黄色い太陽の光が、やわらかに、穏やかに。 日差しも、ふわり、まぶしいのです。 少し先には北窯が。 水溜りの水を舐める、案内人(猫)。 この猫氏の導きで、こちらへ伺うことができました。 くねくね道の先、森の中に佇む、知花さんの横田屋窯。 帰り道は、…

想ひ出写眞館:沖縄篇(1)

|旅| |写眞館| [首里〜安里〜牧志] 首里の真っ青な空。旅はここから始まって。 安里は栄町市場の入り口。ここから入ってゆくと・・・。 中はさながら、迷宮の異世界! 混沌不思議な濃密グルーヴが、其処彼処に、むわわ〜んと。 肉屋さんにて猫発見。お行儀の良いものだ。 トイレが上向き(笑)。 くらくらしながら市場を出て牧志方面へ。裏道てくてく。 そろそろ辺りは、やわらかな西日に包まれて。 お茶屋さんのお隣は土産物屋さんの店先。 大層仏頂面の猫が置き物然として、鎮座。*1 <続く。…

沖縄旅日記 (4)

|旅| [一月八日:那覇 〜 帰路] 沖縄を離れる日になって初めて、どんよりとした曇り空の朝を迎える。予報では雨が降ると云う。身支度してから、煙草をポッケに突っ込んでロビーに降りると、一足早く降りて居た父がテラスで独り、新聞を読みながら、朝の一服。今日は雨だってね。そうらしいな。その内に自然と、昨日の読谷の話になる。良かったなぁ、お前は。俺もその窯元が見たかったなぁ。父がマッチをしゅっと擦る。この日はチェックアウト後、荷物を預かって貰って、壷屋を散策する予定。 壷屋やちむん通…

沖縄旅日記 (3)

|旅| [一月七日:読谷村 〜 牧志界隈] 読谷村やちむんの里:続き さわさわとしたり、ざざあっとしたり。読谷の森の中を渡る風は心地良い。鳥のさえずりが、調子を合わせるよにして、風に重なる。「やんばるって感じでしょ〜」 嗚呼、そうか。 ここで生まれるやちむんは、この場所に良く似て居るのだ。おおらかで、素朴で、のびのびとして。絵柄の大きさにも拘わらず、ちいともそれがうるさくないどころか、入れるものも、盛るものも選ばない、懐の深さが在って。自然の営みが息づいて居る。この場所でしか…

沖縄旅日記 (2)

|旅| [一月七日:読谷村 〜 牧志界隈] 朝早くに目が覚めたものだから、ロビーの一角に設けられた図書スペースへ。読谷についての記事の載るローカル誌など。数冊見繕って、短くメモに書き付ける。天気は、曇りと晴れの間で揺れて居る様子。朝食を済ませて身支度を整え、再びロビーへ下りると弟がレンタカーの手配を確認中。美ら海水族館へ出掛ける皆より一足お先に宿を出て、独りバス停へ向かう。いざ、読谷村へ。 読谷村やちむんの里 午前九時を少し廻った頃。定刻通りにやって来たバスの番号を確認し、ひ…

沖縄旅日記 (1)

|旅| [一月六日:出立 〜 那覇] 夜も明けきらぬ午前四時。冬の早い朝の刺すよな冷たさに、固く身を縮こませ、羽田へ出立。数時間後に羽田を飛び立った飛行機は、南国沖縄へ。冬から春先へ、ひょいと季節が移動したかのよな暖かさ。 空港から宿へは、ゆいレールで移動。小僧先生、大興奮。この度の宿は、弟夫婦が手配してくれた宿で、ゆいレールの県庁前駅からは、目と鼻の先。賑やかな国際通りより数本裏手の立地に、心安らぐ落ち着いた佇まい。その上、利便性も良しときて居るので、実に申し分無い。チェッ…

想ひ出写眞館(2)

|写眞館| |旅| [桐生篇 : 2008年3月17日] 両毛線。日だまりの車窓。 路地裏にて。 立派な鰻屋さん。お休みでした。 山の上の動物園と遊園地。 誰も居ない教会。ひっそり。 また今度。 ■上州ぶらり旅(1) https://hobbiton.hatenadiary.jp/entry/20080317 ■上州ぶらり旅(2) https://hobbiton.hatenadiary.jp/entry/20080318 [盛岡篇 : 2008年3月24日〜] 散策の途中、…

山つつじとコロッケパン

|旅| 月曜日の朝。随分と早くに目が覚めたものだから、 ほんの思い付きで、ひょいと出掛けることにした。 春の18きっぷの、恐らく最後の使い道。 通勤時間帯の下り電車に乗り込んで、会津若松。 無計画のぶらり旅も、それはそれ。また愉しいもの。 常磐線から磐越東線、磐越西線を乗り継いで。 およそ二十年ぶりに乗った、磐越東線の車窓は長閑。 微かな記憶にぶら下がったまま、夢であったのか、 或いは実際に見たのか、今となってはすっかりおぼろと なって居た、渓流沿いの緩やかなカーブの景色。 …

盛岡旅日記(5)

|旅| [三日目:帰路] 朝8時起床。外はどんより曇り空。天気予報によれば、昼前には雨が降り出すとのこと。午後1時台の列車で発つ予定で居たけれど、少し切り上げた午前11時ので発つことにして、早速時刻表を広げ、乗り継ぎの練り直し。小牛田での乗り換えが一回増えるが、どうにか良い按配にゆく。身支度を整えて、9時頃食堂に降りて行くと、ほぼ昨日と同じよな顔ぶれ。最後の朝食も、ゆっくり時間をかけて頂いた。あ〜、やっぱり雨が降ってきましたねぇ。後ろのテーブルで、出張と思しき上司と部下の二人…

盛岡旅日記(4)

|旅| [二日目のつづき] 上の橋〜下の橋 行ったり来たり 『福田パン』 を出た後、そろそろお腹も減って来たことだし・・・と、大通を一路てくてく、上の橋の方へ。途中で信号を待って居たらば、もひとつ先の辻角に、先程 『光原社』 で見掛けた青年の後姿。自転車に半分またがった格好のおばさんに、何やら道でも尋ねて居る様子。信号を渡ったところで、一人加わって井戸端となった、おばさんらの脇を通り過ぎると、自転車のおばさんが 「県庁って聞くから次の角を右って教えたのに、あの人左に行っちゃっ…

盛岡旅日記(3)

|旅| [二日目:盛岡散策] 暖房のせいか夜中に二〜三度目が覚め、その都度、冷蔵庫から水を取り出してゴクリ飲み、眠りに戻る。朝は八時きっかり、目覚ましの鳴るよりも先に起床し、シャワーを浴びて身支度。正月でも無ければ、普段は朝風呂などしないので、しいて云えば旅先での贅沢のよなもの。朝食前に、中津川沿いをぶらり、朝の散歩。番屋〜ござ九辺りを流して、川沿いへ入る。通勤する人々に混じって、てくてく。所々に設けられた土手の階段から降りて、川岸を歩く人。それと平行して、川沿いの道をゆく人…

盛岡旅日記(2)

|旅| [一日目の続き:盛岡着] 間も無く盛岡、とのアナウンスを眠りの遠くに聞ききながら、ゆっくり瞼を開けて、一度ぐっと大きな伸びをすると、鼠色した雨空の中に盛岡が近付く。午後4時半、列車は終点盛岡へ到着。途中花巻に立寄ったにせよ、今朝寝床を出てから、もう半日が過ぎたのだなぁ・・・。実際地図の上で見てみると、ものすごく遠くまでやって来てしまったのが分かるのだけれど、長時間・長距離の移動の疲れは、不思議と感じない。雨に濡れて少し湿ったバックパックを再び背負って列車を降り、まっす…

盛岡旅日記(1)

|旅| [一日目:出立〜花巻] 朝五時台の列車に乗るため、家から駅までの道のりを歩く。未だ明け始めの空は、雨の気配を含んだ雲がうっすらと覆う。二泊分の荷物を小さくまとめたバックパックは軽く、キャンバス地の上着の一番上までボタンを留める。しんと静まりかえった始発の駅のホームに、人は数える程度で、吐く息は微かに白い。やがて入線した列車に乗り込むと、一度大きく揺れて、ゆっくりと動き出す。南へゆくことは多くとも、北へ向かう機会の稀な所為だろか。旅に出ると云う高揚が静かに波立つ。 列車…

上州ぶらり旅(2)

|旅| [天満宮〜ウチヤマ洋菓子店] 昼のぽっかり空いたよな小一時間程を動物園で過ごし、ほわんとした心持ちのまま、山を下る。途中、急な坂道を後ろ向きで登ってくる老婆の姿。背負ったリュックの方が、老婆の背幅よかずっと大きいので、ともすると足の生えたリュックが歩いて居るよにも見え、一瞬ギョっとする。後ろ向きに何か理由が在るのかしら。それとも、膝に負担がかからぬよに?何れにせよ、辺りののどかな風景ともあいまって、実に是、シュールな眺め也。 元来た道を引き返して、今度はさらに北へ。こ…

上州ぶらり旅(1)

|旅| 18きっぷの旅第一弾として、上州は桐生へ日帰りぶらり旅。 通勤通学の混雑を避けて、朝六時台の列車を選んで乗り込むが、混雑とまではゆかぬものの、それでも結構な乗車率。勤め人に紛れて暫し揺られつつ、乗換駅で常磐線を降りて水戸線へと。時間帯なのか否か、こちらも横一列のシート席なもので、ガサゴソ飲み食いするのも何となく憚られる。途中単線になった辺りから、早起きのせいでうとうとし出し、はっと気付いた頃には、あと十分程で小山。周囲の乗客がいつの間にか少なくなって居たのを幸いと、前…

旅はいつも旅人の入って行けない場所にある

|旅| |回想| 最後に短い旅に出たのは、もう九年程も前のことで、そこに様々の想い出の在るのは勿論なのだけれど、今日アイスクリームを食べながら、ふと思い起こされたのは、何故だか旅の記憶の一片では無く、旅に出る前、或る人より手渡された、一筆の言葉だった。 当時のその人、Wさんは、数年後に定年を控えた百貨店のベテラン外商さんで、しかしながら、その飄々として捉えどころの無い、へんてこな人柄のどこを取っても、てんで外商らしくあらず、いつも哲学者のよな顔して、白髪混じりのオールバックを…

スクイージとアルネストのこと(2)

|旅| |回想| スコットランドで数週間を過ごした後。九月も半ばをまわった頃に、私たちはロンドンへと戻って来た。思いの他増えてしまった荷物に、長旅の間に鍛えられた腕力でもって何とか持ち堪えながら、バスを幾つか乗り継いで見慣れたドアの前まで歩いてくると、夏の間の騒々しさのすっかり去ってしまった宿は、玄関の外でおしゃべりに興じる若者の姿も無く、ただひっそりした静けさで私たちを出迎えた。たった数週間空けただけだと云うのに、宿の様子は随分と様変わりして居り、手狭なレセプションに座って…

スクイージとアルネストのこと(1)

|旅| |回想| 先日、探しもののついでに、古い写真のネガを整理するため、分厚くなった茶色い紙袋の中身をごそり取り出したところ、山のよなネガに混じって数枚の写真が出てきた。いつだったかの正月に従妹らと撮った写真。それと、二人のナポリ人の青年の写った写真。私は十年近くも前に旅先で知り合った、この二人の青年の名を、今でもはっきりと覚えて居る。 小柄でずんぐりした、人懐こさの滲み出る風貌が誰からも好かれたスクイージは、写真の中で、私がスコットランドから持ち帰った、タータンチェックの…

断片回想

|旅| |回想| 久しぶりに別行動の友人より先に、宿を出る。新聞紙に包まっただけの、無愛想なくらい洒落っ気の無い、バゲットのサンドウィッチを何度目かに買ったとき、その店の若い青年は、楊枝を口の端にくわえたまま、ぶっきらぼうに云った。「今度は夕方に来ると良い。半額になるよ。」 下町の人間特有の、粗野と人懐こさとの同居する微笑ましい矛盾を、無自覚に備えて居る。 会計を済ませて外へ出ると、美術学校の学生たちが向い側から歩いて来る。皆、昼休みなのだ。毎日の散歩コースになった、木陰の素…

Finding Nighthawks

|旅| |回想| 人っ気の無い、夜の店内で一人 珈琲を淹れて飲む。 外に車の往来は、殆ど無く、 そうか。もう、月末なのだっけ と、独りごちる…。 と或る街。終夜営業のコーヒーハウス。 夜遊びに惚け疲れた若者たちや、 仕事帰りと思しき看護婦、書きものに 没頭する青年など、深夜の古びた ボックス席に、ぽつりぽつりと点在する 人々。私は其処に座り、ただぼんやりと 数日前にエレベータの中で見掛けた、 切ない出来事を思い出す。 降り際、手動の内扉に手をかけながら 老人は小さく云った。 …

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