双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

上州ぶらり旅(2)

|旅|

[天満宮〜ウチヤマ洋菓子店]
昼のぽっかり空いたよな小一時間程を動物園で過ごし、ほわんとした心持ちのまま、山を下る。途中、急な坂道を後ろ向きで登ってくる老婆の姿。背負ったリュックの方が、老婆の背幅よかずっと大きいので、ともすると足の生えたリュックが歩いて居るよにも見え、一瞬ギョっとする。後ろ向きに何か理由が在るのかしら。それとも、膝に負担がかからぬよに?何れにせよ、辺りののどかな風景ともあいまって、実に是、シュールな眺め也。
元来た道を引き返して、今度はさらに北へ。このまま歩いてゆくと、やがては天満宮に突き当たる筈。大通りの突き当たりがお宮さんで終わって居る、と云う図式は、鎌倉の若宮大路にも似て居るなぁ、などとぼんやり考えながら、昼をまわってさらに強くなってきた日差しを避けるよに、歩道の端っこを軒先寄りに歩く。途中、豆腐屋さんの中で、豆乳を立ち飲みする住民数名。小さな牛乳ビン程のビンに、とくとくと豆乳を注いでもらって、一気にぐいっとやって居る。半紙に筆の張り紙には「豆乳60円」と在る。少し先の豆腐屋さんでも、同じよな光景。桐生の日常のひとこま。
古い街並みに沿って暫し。天満宮に行き当たりお参り。境内をぐるりとして居ると、お腹がグウと鳴る。そろそろお昼ご飯の頃合か。大通りを引き返し、途中で横道を川の方面へと曲がる。人も車もひっそりして住宅街へと差し掛かった頃、通りの向こう側に食堂「仲よし」発見。暖簾をくぐろうとしたら、丁度、楊枝をくわえた小父さんが一人、出て来て帰るところだった。互いに軽く会釈して入れ替わり。昼時の忙しいのを過ぎた頃で、おかみさんが溜まった片付けの最中。中華丼をお願いして一息つくと、歩いてばかり居たので、急に肩の方から重たくなる。花柄のテーブルにビニール張りのパイプ椅子。昔ながらの食堂の佇まい。手早に出て来た中華丼をフウフウ云いながら食べ終わる頃には、先程までの重たい疲れは何処や、再び歩く気力が戻って来る。こざっぱりした店を出て、そのままぶらぶらと川の方へ。
いよいよ住宅街、と云った風の界隈。通り沿いの庭先で、お爺さんが植木の手入れなどして居る横には、ぐでんと寝そべる二匹の猫ら。しんと静まりかえった昼下がり。カソリックの教会を通り過ぎて暫くすると、辻角に高級洋菓子の 「ウチヤマ洋菓子店」。表の佇まいも店内も、どことなく70年代の少女漫画のよな風情。奥には、若い職人さんらが忙しく働いて居る様が見える。クラシック音楽の流れる店内は、隅々まできちんと掃除の行き届いて気持ち良い。ちょっと家柄の良さそな初老の奥様が、あれとこれ、それにこっちのも頂戴。などと、顎先に人差し指あてながら、洋菓子を箱詰めにして貰って居る。ショーケエスに並んだお菓子は、どれも皆、実に正統派。今時風情の軽い装いに在らず、真面目に丁寧に拵えられた顔をして居る。迷った挙句、私はシュークリームを一つだけ。すぐに食べますから、と云ったら、簡単な袋に入れてくれた。勿論、食べながら歩く。シュー生地はちょっと固めでしっかり、中のクリームはトロリと、しみじみ美味しい。


[小松屋〜伊勢屋製菓辺り]
ほくほくしてまた大通りまで戻り、来る時に見掛けた手芸店を覗いてみる。季節柄、毛糸のセール中で、店頭の段ボール箱には、一玉百円〜二百円程の特価品がどっさり。桐生くんだりまでやって来て毛糸、と云うのも如何なものやら・・・とも思うが、折角なのでネップの入った杢グレーのを4玉購入(苦笑)。
すぐ其処の和菓子屋さん 「小松屋」 に立寄って、ここでようやく桐生名物の花パンを買い求める。地元のおばあちゃんらが、おつかいものにあれこれと、箱に詰めて貰って居るのだが、この箱がまた良い。民芸調の二色の模様の紙箱。包み紙もこれと同じ。お待たせしちゃって悪いわね、と、ねぎみそせんべいとやらを一枚頂いて、店を後に。花パンは意外や、結構ずっしり重い。
大通りを駅方面に南下。途中、古びた文具店やらを覗いたりしつつ、高架線をくぐって駅よりもずっと南へ。通りの両側は商店街なのだけれど、駅より北側の商店街と比べると、交通量も少なく随分とひっそりして居り、シャッターの下りた店、看板建築など、庶民的な昭和の匂いが其処彼処に。目当ての 「伊勢屋製菓」 は、程無くして見付かった。ガラガラと引き戸を開けると、すぐ左手に山のよな甘味だの巻き寿司だの。ちゃきちゃきっとした若い娘さんが、いらっしゃいませ。うわぁ、迷うなぁ、とあわあわするも、先ずは大好物のすあまと豆大福。コーヒー生クリームどら焼き。え?売り切れ?それじゃあ、生クリームどら焼きを・・・。それから、おはぎも忘れちゃいけない。二つずつ、三つずつと注文するそばから、てきぱきとお菓子をヒゲに乗せ、それを薄紙に包んでゆく娘さん。しめて八百円とちょっと。テーブルではおばさん二人が、おいなりさんと大福で小三時中。こんなお店が地元に在ったら、密かな自慢だなぁ。毎日通ってしまいそうだなぁ。おいなりさんも買えばよかったなぁ。後ろ髪引かれつつ店を出て通りを渡り、お向かいの喫茶店で最後の休憩。伊勢屋で休憩とも考えたのだけれど、やはり珈琲が飲みたかったので、こちらを選択。店内は中年女性と中年男性が数名、一人を除いて何故だか皆、プチプチと携帯をいじって居る。老いも若きも変わり無く、今時の風景のひとつと云うことか。ドリップの珈琲を頂きながら、時刻表を確認すると、電車の発車時刻までおよそ二十分。丁度良い頃合、と、店を後にする。何だかんだで約五時間程の滞在。


帰りの電車に乗り込むと人も疎らだったもので、早速包みを小さく開いて、ヒゲの隙間からすあまを一つ取りだし、パクっとやる。嗚呼、ここに熱いほうじ茶でもあったなら・・・。残りは帰ってからのお楽しみ。足利辺りで、下校時刻の高校生らがどさっと乗って来ると、車内は勢い賑やかに。さてと。後は居眠りしながら、乗り換え乗り換え家路かな。夜八時頃帰宅。

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