双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

沖縄再訪(2)

|旅| |写眞館|


那覇市内〜読谷村恩納村


午後一時半頃。裏通りから人と車で賑わう国際通りに出て、120番のバスへ乗り込み国道を北上。やちむんの里を訪ねるため、一路読谷村へと向かった。前回同様、路線バスに揺られ、流れゆく風景をぼんやり眺めて居ると、心地良い眠気がとろとろと押し寄せてくる。那覇の中心部から親志入口の停留所まで、所要時間は凡そ一時間程だが、道路の混雑如何によっては多少の遅れも在る所為なのか、停留所には”バス時刻表”では無く”バス通過予定時刻”と書かれてあるのが、何処か暢気で可笑しい。
読谷では先ず横田屋窯を訪ねた後、やちむんの里の中をのんびりと見て廻るなどして過ごし、再び下車した停留所へ戻って其処からバスへ乗り込み、更に北上して恩納村の海岸沿いの宿まで。


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国道58号線沿い、車窓の風景。

トリコロールな火力発電所の煙突が二本。



昼寝の中に浮かぶ、ぽっかりとした店々。



読谷村はやちむんの里へ到着。

真っ青で広々とした読谷の空。植え込みの草花も色鮮やかで、風が気持ち良い。


いつかの細い森の一本道を、ずうっと奥へ行く。


知花さんの横田屋窯。庭の奥に並んだ赤い土の塊。この土から素朴で力強い器が出来上がるんだな。その手前では、絵付けを待つ皿たちが日干しされて居た。


前回の読谷探訪記はこちら
『沖縄旅日記(2)』→
『沖縄旅日記(3)』→


到着すると、首都圏から来たと云う女性二人組の先客。軽く挨拶して、軒下に並んだ器を手にとって眺めて居ると、その内の一人が不意に「ショップのバイヤーの方ですか?買い付けですか?」 一瞬何のことやら知れずにきょとんとし、しかしながら、首からカメラをぶら下げ、ポッケからは無造作に突っ込んだ手拭の端、こんな草臥れた垢抜けない風体のバイヤーなど、一体何処に居るものだろか。苦笑いで否定する。内心、苦手なタイプだなぁと想いつつも、顔には一切出さずに居たのだが、続けざまに何処其処のギャラリーがどうとか、何処其処の作家さんがどうとか、作家モノ云々と、こちらの困惑などお構いなしに喋り続けた後、まるで嵐のよに去って行った。唖然として、そうして何だか腹立たしいよな、哀しいよな心持ちになって、器を手にしたままつっ立って居たら、作業場から顔を出したご主人が「お時間が在るのなら、どうですか。珈琲でも一緒に飲みませんか。」とテーブルに誘って下さった。
知花さんだけで切り盛りしてらしたこちらの窯も、今では修行中の青年が一人加わったのだそうで、三人で珈琲を飲みながら、以前に伺った際、従兄弟氏に大変親切にして頂いたこと。こちらでお土産に青いパパイヤを持たせて頂いたことなどを伝えると、ご主人は、そうだったんですか、そんなことが在りましたか。彼はね、相変わらずあんな調子で元気ですよ、と笑って仰った。又、ここ数日の沖縄の天候はやはり異常なのだそうで、旧正月前にこんな夏日の続くのは珍しいと云う。二月初旬に、いきなり二十六度を体感したものだから、つい「春らしい春の時期と云うのは、こちらにも在るのですか?」と伺うと、ええ、春もちゃんとありますよ、と。春が近付くと、風の匂いでそれと知るのだそうだ。「何と云うかな、花のような匂いがね、微かにするんですよ。この感覚は、内地の人にはちょっと難しいかも知れないな。」そしてこんな話もして下さった。たまたまこの日は、午後から天気が大きく崩れるとの予報で、しかしながら、日中の全くの晴天からは、そんな気配は微塵も感じられなかったのだけれども「今は西寄りの方角から風が吹いて居るでしょう。是が雨の降る前になったら、急に北風に変わる。空が途端に暗くなって、ざあっと降り出すんですよ。」 どうぞ食べてみて、と勧められた、やんばるに自生して居たと云うタンカンを頂きながら、自然の営みへ心を寄せることに鈍感となってはいけないな、と自らを省みて居た。
風の心地良い木陰でゆったりと時間を過ごし、器を包んで頂いた後、そろそろ移動することとした。都会には、民芸をオシャレに仕立てようとする、横文字の職業の人たちや、それに嬉々とする人たちが居る。彼らは短いサイクルで消費を、流行を繰り返してゆく。ここには展示室も売店も置かれず、出来上がった器たちが只、白いテントの下に、作業場の軒下に、全く気取り無く並べられて居る様は、軽やかでありながらも、どっしりと地に足が着いて居て、横文字の思惑など意に介して居ない風に見えた。器の生まれる場所、佇まい。其処は器を拵える人の姿勢と重なる。お礼を述べ、木立の中にこじんまりと佇む簡素な作業場を振り返ると、以前奥さんの口にした言葉が、ふっと蘇る。「私らは芸術家ではないから。民芸の職人だから。」



ちょっと散策。

読谷山焼の売店の裏、無造作に置き詰まれた瓦の山。空の色と瓦の色と。


売店の中へ入ったら・・・・・


奥の方から長毛のべっぴんさんが、ふらり。身ごなしがしゃなりとして居て、人懐こい。お店の小母さんに聞いたら、元々は店の前をうろちょろして居た野良で、四年位前からこちらの売店で飼って居るのですって。「野良だったけど、何だか良い猫の血が入って居るみたいねぇ。」って。



午後四時半頃。やちむんの里を後にして国道の停留所まで戻り、バスを待つ。

ここから再びバスに乗って、次の宿のある恩納村へ。


宿は海の真ん前。

午後五時二十分頃。宿に着いたら、六時到着予定の皆は未だ居らず。
水色の濃淡が重なる、穏やかな南国の海の色。丁度、東京からの修学旅行生たちが泊まって居り、裸足になって砂浜ではしゃいで居た。


つづく。

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