双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

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お前の居ない部屋

|爺猫記| 爺様の旅立ちから一夜が明け、午前中に亡骸を火葬した。出発前には、生涯を過ごした部屋の中をぐるり、一周して。晩秋の寒空高くに煙は昇り、午後。両の手におさまるくらいの、小さな白い骨壷に入って爺様は帰宅した。形ばかりではあるものの、それらしく設えた棚の上、遺影の隣に置いて眺めれば、ぎゅうと寂しさが押し寄せる。昨夜は籠の中の亡骸が其処に在って、おいと呼び掛けたり、触ったり、ちょっかいを出したりできたけれど、白黒の毛皮に覆われた、あの馴染み深い姿は、何処を探しても、もうこの…

つまんねえ

|爺猫記| 爺様こと、ホビ野アーロン氏。 本日正午過ぎ、永眠。 享年十二。 爺さんが逝った。長く苦しむことも無く、静かに、穏やかに逝った。始末の良い、きれいな死に様だったと思う。 数日前からはオムツの世話となって居たのだけれど、そのオムツ姿が何ともかあいらしくて、いじらしくて。似合う似合うと云って撫でてやると、じいと人の顔見て、すうと頭を預けて眠った。昨晩も変わりなかった。いつもよりも早く寝台へ登りたそにしたので、定位置に湯たんぽを入れた寝床を整えてやって、一緒に寝た。今朝、…

準備

|爺猫記| 前回から一週間、十二回目の通院。目方は2.5キロ丁度。食欲の戻ったのは、やはり一時的なものであったよで、三日程前からは再び餌場から遠ざかり、匙で口へ運んでも殆ど食べない。後ろ足はすっかり筋力を失って、歩くのもゆっくりゆっくり。よろよろと力無い。もう長くないのでしょうね、と尋ねたところで、若先生がそれについてはっきりと口にすることは無い。けれども毎日共に在って、そろそろ。いよいよ。爺様が旅立つ支度を始めたことを、主である私は肌で感じて居る。点滴や抗生剤は、やがて訪れ…

経過

|爺猫記| 丸一週間ぶりの通院。先週の血液検査とエコーの結果を聞く。ひと月の治療の甲斐在って(無かったら困るヨ…)異常値が随分と下がった他、腎臓の大きさも、前回とほぼ変わらず。とは云え、ガリガリポンの腹へ手を当てれば、肥大した腎臓が容易に確認できる大きさであることに、変わりは無いが。*1前々回の通院時の触診中、診察台の上へ人生初の粗相をしてしまった爺様。朝から寝て居たところを、そのままひょいと連れてきてしまったので、恐らくは頑張って尿意を我慢して居たのだろ。実に気の毒なことを…

起伏

|爺猫記| 通院が週一回ペエスとなり、食欲が幾らか戻って、ほっとしたのも束の間。金曜には目方が3キロを切り、とうとう2.8キロ台にまで落ち込んだ。それからは、寒さも手伝ってか。めっきり自ら餌場へ行く回数も減ってしまったため、寝床の毛布の隙間から、すみませんよ、と起こしては、半ば強引に匙で食べさせて居るのだが、それだって僅かなものである。 「やれやれ。一歩前に進んだら、また一歩下がって。結局、ちいとも進んで居ないねぇ」 食べこぼしを拭いながら、何気無くそう口にした後で、はっとし…

馬肥ゆる秋とは云うけれど

|爺猫記| ここ暫くの間は食欲が戻らず、毛布の中に丸まってばかりの日が続いて居た、爺様。火曜日に病院へ行くと、若先生が、少量でも栄養価が高いウェットタイプの療法食を出してくれる。帰ってから、是を匙の上にちょいと乗せたのを、寝床の爺様の口元へ持ってゆくと、今の今まで、餌と云えばカリカリ以外は頑として受け入れなかったのが、如何なる心境の変化やら。ウニャウニャと鳴きながら、夢中になって食べるではないか。良し良し。しかし何だな。寝床の中で半分寝たままに匙を舐める様は、差し詰め入院患者…

不得手なふたり

|爺猫記| 通院五回目。ここ二日ばかりを寝て過ごして居る所為だろか。餌の減りが少ない。ぐったりと云うのでも無いが、とてもだるそうなので、指圧は軽く済ませて、後はそっとしておいてやる。 そして案の定。当初の懸念通りとは云え、抗生剤の服薬は早くも落第である。私の飲ませ方が下手くそなのと、何よりも爺様の薬嫌いだ。飲ませる不得手と飲む不得手。タイミングが悪かったりすると、空きっ腹で吐き戻したりもするため、何れにせよ爺様には気の毒で良いことは無かろう、と先生に相談したところ、抗生剤は錠…

深く

…あ。深くなれ、秋。 |爺猫記| ほぼ二日に一度の点滴も四回目。二日前からは抗生剤の投与も始まった。若先生曰く、様子を見て再度血液を調べます。数値が下がってきて居れば、点滴の回数を減らして、それ以降は徐々に投薬などで維持できれば良いのですが…とのこと。幸いにも貧血の症状は無く、食欲もだいぶ戻って来て居る。腎不全と一口に云っても、進み具合の程度は猫其々で、爺様は重症には違いないけれど、点滴や投薬、療法食などで、残された腎臓の機能を、できるだけ維持してあげること。病気の影響で上手く…

ひとりと一匹 

|爺猫記| つい数日前。常連のSさん宅の猫氏が逝った。生まれ付き腎臓が弱く、数ヶ月に一度の通院と、慢性の腎不全を抱えながらの八年間の一生だったけれど、それ以外は他の普通の猫たちと同じだった、と云う。拙宅の爺様の具合を訊かれたので、つい本音をこぼすと、赤ひげ先生の理屈は確かに正しいんだけど、なかなかその通りにできる飼い主なんて居ないものだよ、とSさんは仰った。 「人間はさ、普段の風邪とか予防注射なんかは、掛かりつけの町医者に通うけど、例えば癌だとか大きな病気が見付かったら、紹介…

ゆれる

|爺猫記| 爺様の病発覚から、もうじきひと月が経とうとして居る。長くはもたぬ腎臓の病だ。気休めと知りつつも、腎兪や百会などのツボを指圧し、やんわりと撫でさすってマッサージを施す。一日の大半を眠って過ごしては居るけれど、たまに起き出しては水を飲んだり、トイレに行ったり、天気の良い午前中には、窓辺に日向ぼっこすることも在る。朝晩は特に外気が冷たくなってきたので、毛布の寝床の中へ湯たんぽを入れてやる。しかしながら餌を殆ど口にせず、徐々に血の気は薄らいできて、体温も下がってきて居る。…

ガリガリポンと秋の空

|爺猫記| 爺様近況。療法食一日分の分量を、三日かけてようやっと食べて居るよな状況ではあるけれど、毛艶も顔もきれいで、別段、涎や目脂が出る訳で無し。見目は如何にも病に弱って居る風に無い。それがいざ抱き上げてみれば、まるで羽枕か何かみたいに軽くて、すっかり骨ばった身体の感触が直に伝わるものだから、その慣れぬ落差と腕の中のひどく小さな様に、ぎゅうと胸苦しくなってしまうのだ。ガリガリ、なんて云うと哀しいので、せめて”ガリガリポン”と云う。昨日からは殆ど餌を口にせず、極力動かぬ省エネ…

十五夜ワルツ

|爺猫記| 午前中の内に爺様を医者へ連れてゆき、レントゲンと血液検査。結果は午後になるとのこと。その間、爺様を家へ戻して寝かせた後、私は実家で軽く昼を食べ、鍼灸院へ出向く。木漏れ日の程好い寝台の上にうつ伏せとなり、患部に温湿布の電気を流して貰って居ると、音量を絞ったイージーリスニングの有線から、耳慣れたやわらかいギターの旋律が流れてきた。『ディア・ハンター』のテーマ曲だった。ここ数日間、ぴんと張詰めて居たものが、不意にはらとほどけた。堰が切れると云うのじゃない。只、音も無く、…

静養中

|爺猫記| 脚が動かせぬのでは仕事にもならぬと云うことで、強制静養中。 おかげで爺様と丸一日一緒に居てやれるとは、何とも皮肉なものだ。 爺様、少しずつ餌を食べるよになった。腹の上で好きなだけ寝させてやる。

泣きっ面に蜂

|爺猫記| 爺様の具合、芳しからず。餌も食わず、寝てばかり居る。 錠剤の投薬が上手くゆかず、苦しい思いをさせてしまう。 今朝は何とか上手く収まってくれたのだが、午後になって 胃液をだっと吐き、さすがに疲れて、小さく丸まったままで居る。 投薬で四日間様子見、と云うのに従った訳だが、そうは云っても 日々爺様のこんな姿を見るにつけ、詳細の分からぬことへの苛立ちと、*1 己の主人としての至らなさに、腹が立つやら。情けないやら。 ご免よ。ご免よ、爺さん。 痩せこけた寝顔の上で、つい、ぽ…

爺様の具合

|爺猫記| 実は先週末より、爺様猫の体調が芳しくない。 カリカリ餌を徐々に口にしなくなり、見る見る間にやせ細って、抱いた背骨のごりごりとした感触に、思わずぞくりとなる。かと云って、ぐったり元気が無いと云うのでも無く、水をいつも通り飲んで居るところを見ると、恐らくは、以前から歯槽膿漏気味であったのが原因か。現に前歯の下が赤く腫れて居る風である。しかし困ったのは、誰に似たのやら。貧乏性と云うか、偏屈と云うか。何せ幼い頃より、徹底してカリカリしか食わない猫だもので、幾らこちらが気遣…

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