双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

不得手なふたり

|爺猫記|



通院五回目。ここ二日ばかりを寝て過ごして居る所為だろか。餌の減りが少ない。ぐったりと云うのでも無いが、とてもだるそうなので、指圧は軽く済ませて、後はそっとしておいてやる。
そして案の定。当初の懸念通りとは云え、抗生剤の服薬は早くも落第である。私の飲ませ方が下手くそなのと、何よりも爺様の薬嫌いだ。飲ませる不得手と飲む不得手。タイミングが悪かったりすると、空きっ腹で吐き戻したりもするため、何れにせよ爺様には気の毒で良いことは無かろう、と先生に相談したところ、抗生剤は錠剤から注射に変えましょう、と相成った。


聞けば、注射の効果は二週間と云うのだから、飲み薬に関して良い所無しの我々にとっては、渡りに船の実に有難い話だが、何せ秋風の滅法堪える懐が故、そのお値段が気になるところ。ちなみに錠剤であれば、一週間分が千円程である。恐る恐る伺ってみると、一回が三千円とのことだから、是を一週間分に換算するなら千五百円。つまり、錠剤を飲ませるのと比べると、一週間あたり五百円余計に掛かる訳で、しかしながら、この五百円で我々が得られる平穏は計り知れない。飲ませる側は、薬と考えただけでどんより重たい罪悪感に苛まれ、飲む側は、薬を隠し持って歩み寄る主の作り笑いを見るにつけ、これから訪れる恐怖に身を硬くする。たかが薬で心身共に消耗。そんな毎日の重圧から解放されるための五百円は、確かに五百円でありながら、その幾十倍の価値にも相当するのだ。朝晩二回のストレスよ、さらば!
皮下点滴は一日おきだったのが、今回から三日間隔となる。すっかり慣れた様子の爺様は、いざ点滴が始まると、目を瞑って前足を香箱に組み、好きに寛いで居る。先生にちょいと喉元を撫でられた際などは、大層ご満悦であった。兎にも角にも、爺様のしんどいのが、少しでも楽になると良い。

<