双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

ペダルを踏んで進むのだ

|散輪|

月曜日。久々の散輪。前回は二月に少し乗ったきり、随分と間が空いてしまった。休みの度に乗ろう乗ろうと思いつつ、身辺が色々ヘビーだったり、春先に左膝をちょっくら痛めてしまったりと、なかなか散輪するよな気にもなれかったのだが、もうそろそろ。もうそろそろ、いい加減に閉塞感を脱したいのだ!! そんな訳で、正午過ぎにグワイヒア号と出立。お山の食堂へ天ぷら蕎麦を食べに行く。

とは云え。数カ月ぶりの脚はすっかりなまくらだし、山道なのでそれなりに坂なども在るしで、にも拘わらず調子に乗ってぎゅんぎゅん立ち漕ぎなどして居たら、大腿直筋がピキっと…。云わんこっちゃない(笑)。まあまあ急ぐ旅で無し、大人しくゆっくりのんびり行きましょうや。なだらかな長い登りの先、ダムを過ぎてしばらく進んだ辺りで、空に少し雲がかかってきて風が涼しくなった。いつも以上に交通量も少なく走りやすい。のんびり散輪にはちょうど良い感じで、久々の愉しい心持ちだなぁ。胸いっぱいに山の空気を吸い込んで大きく吐き出すと、塞いでいたのがすうっと晴れてゆく。
自転車はペダルを踏めば踏んだ分、ちゃんと前に進むし踏まなければ進まない。登りはきつくて嫌になるけれど(笑)、頑張って登れば帰りは逆の下りとなって、ささやかに労ってくれる。動力が人間、つまり自力と云うことは (整備不良や過信や油断も含めて) 自分自身の行いも心根もそのまま反映される。だから自転車が好きなのだと思う。



ちんたら走って四十五分程で到着。あーお腹すいたー!


自転車を停めて中へ入ると、近くの集落の住人と思しき爺ちゃんらが二人、畑の話をしながらカレーライスとうどんを食べて居た。ここは窓から川沿いの風が入って気持ちが良いんだ。注文した天ぷら蕎麦を受け取って、窓際の席へ座る。山菜の天ぷらと玉ねぎのかき揚げが乗っかったあったかいお蕎麦に、お新香と小さなお稲荷さん一つ。そこへ今日は「これ、ちょっと崩れてるけど余ったの、おまけでつけとくね」と厨房のおばあから、新じゃがの味噌炒めのサービス付きである。わーい嬉しい。厨房に片付けにお勘定場に。山の食堂にはお年寄りが元気に働いて居る。皆、しゃっきりとして元気だ。

蕎麦を食べ終えて、もう半時と少々山の風の気持ち良い窓際で憩う。何するでも無くただぼんやりと、緑の木々に囲まれた景色を眺め、時折目を瞑る。世知辛さだとか、生き辛さだとか、分断だとか、何だとかかんだとか。乱暴に世界を巻き込みながら回転する竜巻に、良心や機微、余白なんてものはいとも容易く吹き飛ばされてゆく。まったく嫌な世の中だ、と嘆くことは簡単だけれど、意志を手放さずに、巻き込まれず吹き飛ばされず、馬鹿みたいに意地を張って居たい。なんてことを思う。



ここは私にとって心を逃がす場所。逃がして、再び戻す場所。

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