|雑記|
知人より、無花果の自家製コンポートを頂戴した。
シロップに浸かった一口大の小ぶりな無花果は、
所謂”はねモノ”であるが故、不揃いで不恰好で、
お世辞なりにも美味しそうと見えなかったのだけれど、
指先に摘み上げたのを、奥歯で恐々噛んでみると、
てっきりシロップの汁気を含んで、とろり、やわらか
となったのを想って居たところへ、意外な程しっかり
確かな果肉の食感と、噛む毎ににじみ出て広がる、
上品な薄甘さが堪らず、もうひとつ。もうひとつ。
はたと気付けば、一人で平らげてしまったのだった。
そう云えば、いつから無花果を好きだ、と想えるよに
なったのだろか。母は無類の無花果好きであるが、
私自身はと云うと、別段、取り立てて好きと感じた
ことも無いよに想う。他の果物、例えば柑橘類や葡萄
などと比べても、酸味や甘みの点で味の特徴に欠け、
見目も至って地味。*1その上、割った中身は何処か
食虫植物や昆虫を想わせ、ややグロテスクでもある。
そんな訳だから、数在る果物の中から、あえて無花果を
選ぶ理由の見当たらなかったのが、どうしたものだか。
三十を過ぎた頃から、段々と無花果の地味な魅力を
再確認するが如く、無花果の出回る季節ともなると、
嗚呼、食べたいな。と想うよになった。近頃では店先に
比較的高価な果物として扱われ、随分と偉くなったものだ。
少し前まで、無花果なんてものは、近所の何処かに必ず
植わって居て、実の付いたのが良い塩梅に熟れてくると、
一つ二つもいで来たのを、触ると痒くなるから、と切り口
からしみ出す白い樹液に気を付けながら、美味しいのか、
美味しくないのだか。神妙な面持ちで食べたのだったな。
*1:それが歳をとると、あの緑から赤紫がかった色調が、実に秋らしく、渋くて素敵だなぁ、などとしみじみ感じるよになるから、不思議。