双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

起伏

|爺猫記|



通院が週一回ペエスとなり、食欲が幾らか戻って、ほっとしたのも束の間。金曜には目方が3キロを切り、とうとう2.8キロ台にまで落ち込んだ。それからは、寒さも手伝ってか。めっきり自ら餌場へ行く回数も減ってしまったため、寝床の毛布の隙間から、すみませんよ、と起こしては、半ば強引に匙で食べさせて居るのだが、それだって僅かなものである。


「やれやれ。一歩前に進んだら、また一歩下がって。結局、ちいとも進んで居ないねぇ」


食べこぼしを拭いながら、何気無くそう口にした後で、はっとした。馬鹿か、私は。前へなど進む訳が無いだろうに。
現状を維持できる、ぎりぎりのところで何とか凌いでは居ても、爺さんが段々とあちら側へ向かって居るのに変わりは無い。何もしないよりかは、治療のお陰で幾分ゆっくりかも知れぬが、それでも着実に、別離は近付いて居る。それ程遠からず。主の務めは、爺さんの死出までの日々を、当の爺さんができるだけ穏やかに過ごせるよに、手伝い、看護してやることだ。ならば、今食いたくないと云うのを、無理無理、鼻先へ匙をおっつけることもないか。食いたいときに食い、寝たきゃ寝て、爺さんの気の済むよに。好きにしたら良い。膝が欲しけりゃ、抱いてやろ。
治療を始めて、そろそろひと月。今度の金曜日に血液検査が在る。勿論、楽観なんてしちゃ居ないが、もう以前のよに、結果云々でうろたえることは無いかな、と想う。ただ、胸はズキンと痛いだろうけれど。

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