双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

準備

|爺猫記|



前回から一週間、十二回目の通院。目方は2.5キロ丁度。食欲の戻ったのは、やはり一時的なものであったよで、三日程前からは再び餌場から遠ざかり、匙で口へ運んでも殆ど食べない。後ろ足はすっかり筋力を失って、歩くのもゆっくりゆっくり。よろよろと力無い。もう長くないのでしょうね、と尋ねたところで、若先生がそれについてはっきりと口にすることは無い。けれども毎日共に在って、そろそろ。いよいよ。爺様が旅立つ支度を始めたことを、主である私は肌で感じて居る。点滴や抗生剤は、やがて訪れるその日までの、坂道の道のりを幾らか緩やかにしてくれるだけの処置だ。二ヶ月、或いは三ヶ月。別れの準備、心づもりを整えるまでに必要な時間を、猶予を、与えてくれるだけの。そうか。爺さん、決めたのか。
もうワシはゆっくり休みたいのじゃ。とでも云いたげに、電気ストーヴの前。虚ろにまどろむ小さな額を、つうと人差し指で撫でながら、その晩。今月中に通院を終いとすることを考えて居た。よしよし、爺さんは何も心配なさるな。頑張りなさるな。今はただ、好きなだけお眠り。


+++


余談。イヤダカラ、イヤダ。



爺様の休み場は、昔から主の寝台の足元と決まって居り、よろよろの後ろ足となってもそれは同じなのである。しかし床から寝台までの高さを、爺様の衰えた筋力では登れなくなってしまったから、踏み台を用意してやるも、いまいち使い勝手が分からぬ様子…。そんな訳だから、急拵えは否めぬものの、手ごろな大きさの段ボール箱で、餌場の近くに穴倉を整えてやる。ところが、元々頑固なところのあったのが、年寄りとなって更に頑なとなったのか。*1意地でも梃子でも寝台なのじゃ、と云ってきかない。仕方が無いので、一旦は降参。暫し様子を見守ることとする。

左:急拵えのレグザ小屋。バスタオルの天蓋付き、バリアフリー(?)の介護仕様じゃ。餌場は隣だし、厠へだってすぐだし、中には気に入りの毛布と枕も入って居るし、あったかで静かで落ち着けるだろに。
右:しかし。イヤダカラ、イヤダ。と云う訳で、どうしてもここが良いのだそうです。やれやれ、誰に似たのやら。

*1:元来はとっちゃん坊や的な性質であるのだが、何やら妙なところに妙なこだわりを持って居るので、是にはしばしば困ったものである。

<