双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

ゆれる

|爺猫記|



爺様の病発覚から、もうじきひと月が経とうとして居る。長くはもたぬ腎臓の病だ。気休めと知りつつも、腎兪や百会などのツボを指圧し、やんわりと撫でさすってマッサージを施す。一日の大半を眠って過ごしては居るけれど、たまに起き出しては水を飲んだり、トイレに行ったり、天気の良い午前中には、窓辺に日向ぼっこすることも在る。朝晩は特に外気が冷たくなってきたので、毛布の寝床の中へ湯たんぽを入れてやる。しかしながら餌を殆ど口にせず、徐々に血の気は薄らいできて、体温も下がってきて居る。ああだこうだ抗わずに腹を括り、延命治療もしない、などと格好良く啖呵切ってはみたものの、いざ蓋を開ければ、こうして日に日に弱ってゆく爺様を看ながら、甚だ情けない程、おろおろとゆれて居る始末だ。この体たらくの甲斐性無しめ。




昨晩の寝床の腕枕。爺様の細い寝息が、肩口に預けた小さな顔からこぼれてきて、そっと額に頬を寄せてやると、力無く伸ばした前足が、乳房の上に軽く置かれた。まるで眠りながら無意識に寄る辺を求めるみたいな様に、堪らずその上へ我が手を重ねれば、爺様が寝息の隙間で、ニャとひとつ、ひどく小さく鳴いた。それまで辛うじて押しとどめて居た感情が、どっと溢れ出す。嗚呼、そうだ。この小さな命。この小さな命を預かって居るのだ、私が。本当に是で良いのだろか。他に手立ては無いのか。もしかしたら、未だ手の施し様が在るのではないか。ならば嗚呼、もっと一緒に居たい。生きさせてやりたい。ゆれた心が乱れて縺れて、頬を伝った塩辛い涙は、耳元から枕へ落ち、そうしてやがて冷たくなった。
独りの時間は、カーディガンをひたすら編み続けて居た。尋常でないくらいに没頭して居ないと、またゆれてしまうのが怖かった。丁度、そんな矢先だった。小野さん(id:sap0220)のところのさぷ氏が、遠く旅立ったことを知る。ようやく苦痛から解放されて、のんびり昼寝したり、好きなもの食べたり。穏やかな日々が待って居るのだろな。ねえ、さぷさん。そっちはあったかですか?

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