双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

沖縄旅日記 (4)

|旅|


[一月八日:那覇 〜 帰路]
沖縄を離れる日になって初めて、どんよりとした曇り空の朝を迎える。予報では雨が降ると云う。身支度してから、煙草をポッケに突っ込んでロビーに降りると、一足早く降りて居た父がテラスで独り、新聞を読みながら、朝の一服。今日は雨だってね。そうらしいな。その内に自然と、昨日の読谷の話になる。良かったなぁ、お前は。俺もその窯元が見たかったなぁ。父がマッチをしゅっと擦る。この日はチェックアウト後、荷物を預かって貰って、壷屋を散策する予定。

  • 壷屋やちむん通り

実は昨日。私以外の一行も、水族館見学の後で読谷に立ち寄って居たのだが、入ってすぐの辺りに立ち寄っただけで帰って来たらしい。尤も、焼きもの好きの父には、何とも気の毒な話で、それ故、この日の壷屋散策が愉しみのようである。ゆいレールに乗って牧志で降りた後、壷屋へと向かう。
時折、生憎の小雨に見舞われたものの、散策には支障が無い程度で、その内に空は晴れ間を見せ始めた。壷屋の辺りには、沖縄特有の佇まいを纏った古い家々が数多く、また、緑も多い。賑やかな那覇の中心部の一角に、こんな風に、しっとり落ち着いた風情の街並みが、きちんと残されて居る。小さな路地のことを、こちらでは 「すーじぐゎ」 と呼ぶのだそうだが、石畳のやちむん通りの所々には、こうしたすーじぐゎが幾つも存在して居て、ついふらりと入ってみたくなるよな魅力が、静かに漂う。ここでも猫たちは、暮らしの風景の一部として溶け込んで居り、小僧氏はあっちにこっちに、猫を追うのに忙しい。せがまれて、仕方が無いので一枚。猫と一緒の写真を撮ってやる(笑)。皆が其々に店を覗いて居る間、私はこそっとすーじぐゎに入って、何想うでも無く、ぼんやり。と、何の大木だろか。物凄く大きくて、通りからでは全貌が分からない程。スパニッシュ・モスのよな植物が絡まって居るよにも見えるが、それも良くは分からない。保護のためなのか、それとも誰かの敷地なのか、ぐるり、板塀で囲いがしてある。鬱蒼とした、静寂の一角。不思議な光景。
そろそろ一休みしよか、と、近くの喫茶店へ向かう途中。父がふらり。一軒の器屋へ入って行ったきり、やや暫く戻って来ない。私が様子を見に行くと、父は幾つかのカップを並べて、やけに神妙に腕組みして居た。どうやら、自分用に、持ち手の付いて居ない珈琲カップを買い求めるつもりらしい。家に無かったっけ?と聞くと 「俺が自分で気に入ったのを、自分で買って使いたい。」 と云う。なんだ、そうだったのか。あれこれと店々を覗いては、何を探して居たのかと想ったら…。錆びた色具合が何とも云えぬ、赤。父が気に入ったのは、そんな赤の入った、無骨で力強いやちむんだった。大きさや、持った感触、佇まいを幾度も確かめながら、うん。これにする。と、店の人が 「今日は甥っ子の誕生日だから、お祝い。二割引きにしましょうねぇ。」 図らずとも、お祝いのお裾分けに預かった格好となった。お年始にどうぞと、干支皿まで付けて頂いて、満足顔の父。
弟は知らぬ間に、何処かの店で 「からから」 と呼ばれる、泡盛用の器を買い求めて居た。あいつが焼きものを??兎角新しもの好きの弟故、何だか意外と想ったのだけれど、まぁ、弟もそう云うものの良さの分かる年頃になったのかも知れんなぁ。壷屋焼きの茶碗に入った珈琲を頂いて、人心地。木陰から心地良い風が通る。暫し憩った後、歩いて宿へ戻り、預けた荷物を受け取ったら、さて。いよいよ空港へ。帰りもゆいレール。小僧氏よ、乗り納め故、しかと満喫し給へ。
空港へ着いて間も無し。先程まで晴れ間の見えて居たのが嘘のよに、雲行きが怪しくなり、あれよあれよと雨模様に。機内持込みを減らすのに荷物を整理し直して居たら、バックパックのポケットの奥から、はて。いつから入ったままで居たのか。百けん先生の 『ノラや』 が出て来た。遅い昼を空港内の食堂で済ませて、午後三時過ぎ。飛行機は那覇を出発、帰路に就く。
左様なら、沖縄。また、いつの日か…。

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