双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

肩掛け鞄

|モノ|


皮の鞄は二つきりだが、その内の肩掛けとは、
かれこれ二十年以上と付き合い長く、愛着も想い入れも深い。
ひと頃の勤め人諸氏の通勤風景には一般的に見られた、
或いは、ループタイにベレー帽と云った塩梅の
身繕いの爺様が、一寸した外出の際に下げて居た、
縦長の、あの革の肩掛け鞄である。
是は高校進学の祝いとして、父方のT叔父より出資して貰い、
其処へ僅かの貯金を足して、自ら買い求めた品なのだけれど、
明るい茶の、かちりとした牛革製で*1、後日、金主元である
T叔父へ報告を兼ね見せにゆけば、選りに選って又そんな
じじむさい鞄を…と呆れられたのを、今も憶えて居る。
両脇と底にマチが在る為、見栄えのわりには十分物が入り、
ポケットやペン差しなどの細部も程好く、使い勝手も宜しい。
通学には勿論、学生を終えた後も、散策に旅先に重宝し、
だいぶ使い込んで年季は重ねたが、大切に使ってきた甲斐
在って、今尚壊れもせず。佇まいだけが、実に良い塩梅に
草臥れた。近頃となっては、軽くて扱いの楽な化繊の品や、
今様の洒落たデザインの品へ取って代わった所為だろか。
この手の鞄をあまり見掛けなくなってしまったのは、
少々寂しい気がする。斯く云う私自身、ここ数年来は
不精も不精、何処へ行くにも、もっぱらザック頼りなので
あったが、やはり、使い込んだ革の佇まいと云うのは、
格段良いものである。久々押入れの棚より取り出して、
しみじみ手入れをすれば、また宜しく、と懐かしい心持ち。*2

*1:形は画像の品にほぼ同様だけれど、蓋に丸みは付いて居らず、持ち手は一枚仕立てで、直接鋲で留めてある。

*2:内ポケットから伊東屋メルシー券が出て来たのは良いが、もう使えないのであった。

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