双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

夜に茶をすする

|雑記| |猫随想|


二月も半ばを過ぎ、時折に春の気配が紛れ込むも、
冬の支度をすっかりと解くには、未だ早い。

猫たちを見よ。ああして一つの寝床へひっついて眠るが、
幾らかの窮屈さでもって暖をとり、温まって居る。
寄れば毛繕いの応酬を経て、やがて蹴飛ばし合いの末の
すったもんだが常なれど、終いには仲が良いのらしい。
主は寝床に重なる猫らを目の端に留め、しみじみ…
と、不意のくしゃみ、ひとつ。

やれやれ、そろそろ来たか。
ふう。湯呑の縁に口をあて、湯気の下に茶をすする。


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二月の猫たち。



何だってこう、かあいらしいかねえ。(馬鹿)

チョコレートの小箱

|縷々|


月に一度か二度の頻度で通って下さるお客様が居る。
ボブヘアーの小柄な女性で、雰囲気の印象的な方。
数年来通って下さって居るのだが、ひょんな経緯から話が弾み、
名前やお仕事を知ったのは、つい数か月前のことだ。
今までにも、お話やお名前を伺う機会は在ったかも知れないが、
何年か掛かって、双方の”縁”と”機”の丁度重なったのが
恐らくは、その日だったのだろ。不思議なものである。
今日の来店もいつもの時間帯、開店から少し経った頃。
いつものよに珈琲を頼まれ卓まで運んで持ってゆくと、
私とAちゃんとに渡したいものが在る、と云う。


「バレンタインデーだから、と云う訳でも無いのですが、
おいしい珈琲とこちらで過ごす時間と。いつ来ても変わらずに
それを提供して下さるお二人への、私からの感謝の気持ちです。
何よりも売り場でこれを目にした途端、もうパッとお二人のお顔が
頭に浮かんで、イメージにぴったり!って差し上げたいなと思って…」


真っ赤な細いリボンのあしらわれた、掌に乗る程の小箱は、
澄み切った夜空に墨を放ったよな、深い深い濃紺色で、
控えめな文字は金色の箔押し。上蓋をぐるりと囲む格好で緑の蔦が、
そしてその内側に、森の動物ときのこが描かれて居る。
きりりと品の在る、けれども何処か長閑さの感じられる意匠。
ゆっくり、そっと蓋を開けると、薄紙の下へ隠れて居たのは
まるで繊細な陶器細工のよな、木の葉や花々を模した、
四つの異なる種類の、これまた小さな小さなチョコレート。
嗚呼、こんな素敵なチョコレートの小箱に重ねて頂いたなんて…。
勿体無いのと恐縮なのと、有難いのと嬉しいのとで、
小箱を手に、私はぶわあっと胸がいっぱいになった。


有難う。あなたがこの店を大切に思って、通って下さるよに、
私たちもあなたの存在が励みになって、毎日店に立てるのです。
だから。そう云うお客様が一人でも、二人でも在る限りは、
私たちは灯火を消さぬよに、この小さな場所を守り続けるつもりです。

雪の一日

|日々| |音|


朝起きると外がしんとして居て、あ。雪だな、と思う。
午前中はちらついて居ただけのが、昼をまわる頃には本格的に降り出し、
やがて辺りが白くけぶると、すっかり静かな雪景色の様相となった。
お外っ子のお嬢も、今日は観念して寝箱の中でうずくまる。


底冷えのするよな寒さに、何か体の中からあたたまるものが食べたくて、
こないだ貰った泥付きのニンジンが沢山在ったなぁ、と昼にスープを拵えた。
主役のニンジンはサイコロ大の角切りにして、惜しげ無くどっさりと。
薄切りの玉葱とニンニク、セロリとベーコンの半端も刻んで、豆も入れて。
粗方火が通ったら、スパゲッティをぽきぽきと細かく折って鍋の中へ。
くつくつ煮込んで居ると、クミンシード、チリパウダー、ニンニクにセロリ。
立ち上る湯気の中に色々な香りが漂ってきて、ああ。この感じ、冬だ。
鼻から胸いっぱいに吸い込んで、再び蓋をする。あと少し、あと少し…。


レッツ・ゲッツ・ロスト~ザ・ベ

レッツ・ゲッツ・ロスト~ザ・ベ

具だくさんのスープで芯からあたたまり、ほっと人心地。
この天候なので客足は諦め、午後は読みかけの本を読むなどして過ごす。
今日はずっとチェット・ベイカーをかけて居た。

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