|猫随想|
実は現在、お外っ子であるお嬢の腎臓の具合が宜しくない。先月の末、お嬢が軽い脱水状態であることに気づき、そう云えばここのところ寝そべって居ることが多く、何だかおとなしいな。と感じることはあったものの、大方この梅雨とは思えぬ暑さの所為と、少し様子を見て居ったのだけれども、たとい軽度とは云え、脱水を起こしていると云うのは、ひょっとすると腎臓が弱って居る可能性が高い訳で、ならばやはりお医者へ連れて行って診て貰わねば、と先週の月曜午後に、急遽お医者へかかりに行ったのである。
案の定、軽い脱水状態と云われ、腎臓も心配なので、輸液の前に血液検査を行うことになった。お嬢は血液検査を未だ一度もして貰ったことが無かったし、丁度良い機会である。すると、奥から新顔と思しき看護師さんがひょいっと現れて「おケンさん、久しぶりだねー」 えっ?あれっ?もしかして...実に何と、赤ひげ先生の所に居た看護師さんではないの!
聞けば、赤ひげ先生が病院を閉めた後、赤ひげ先生の知り合いの先生の紹介で、六月からこちら(若旦那&忍びのかかりつけ)に勤める運びになったのだと云う。「まだ勝手が違うので慣れなくて」と苦笑いするも、持ち前の手際の良さと勘の良さでてきぱきと働いて居た。ここだけの話、お嬢のカルテには『*手袋必須』の記載が在るとのこと(笑)。間違いなく前回の怪我の治療の際の大騒ぎが原因であろうが、以前からお嬢を知る看護師さんは、随分大袈裟だなーと思ったらしい。
見知った看護師さんに安堵したのか、お嬢は採血も輸液も実に大人しく受け入れて、長い診察の間ずっとお利口さんであった。血液検査の結果は思った通り、BUNとクレアチニンなどの腎臓に関わる数値が、いずれも正常範囲を上回って居り*1、先生の説明では「ステージ2」相当とのこと。ステージ2などと聞くと、普通は狼狽してしまうのだろうけれど、経験上、検査の数値は事実であると同時に、あくまで”数字”であって、そこから判断される状況が必ずしも実際の状況と一致するとも限らないのかな、と。腎臓云々については忍びちゃんが既にそれを証明しているし、個体差だって在る。とは云え楽観できる筈もないし、只坦々と粛々と。毎日の様子と変化に気を配りながらお世話するだけである。先生曰く、輸液して脱水が解消されれば体が楽になると思うので、後は様子を見て、調子が良くないようであればまた来てください、とのこと。
お外っ子ってのは、こう云うとき、つくづく遣る瀬無くなるのだけれど、ぼやいたところで仕方がない。お外っ子なりにできる範囲の中で、めいっぱいのことをやるまでだ。幸い食欲は在るので、水分を多めに仕立てた食餌を用意すると、少し残しはしたものの、思いの外しっかりと食べてくれた。翌日以降は、腎臓ケア用に調合した薬草チンキとクマザサエキス。それと以前から気になって居た腎臓用のサプリメントを購入し、いずれも一日二回投与して居る。それまでのドライフードは一応、シニア向けでタンパク質やミネラルの分量が抑えめになっては居たのだが、療法食相当のものの方が宜しかろうと『アニモンダ インテグラプロテクト 腎臓ケア』へ切り替ることとした。一先ずこれらを続けながら、必要とあらばその都度適切なケアを加えるなどして、日々様子を見てゆくつもりである。
腎臓の病は猫の宿命、とはよく云われることだし、猫飼いとして重々理解して居るつもりではある。けれどそれでも、その訪れはあまりも突然で、グサリと突き刺さる。何かが起こるたび、只の杞憂に終わってくれれば良いと願えども、それだっていつも叶う訳じゃない。事実は事実として、じいと黙ってそこに在るだけだ。
しかしながら、忍びちゃんを見よ。生まれつき腎機能が弱く、これ以上大きくなれぬとか、長くは生きられぬとか何とか、悲観的なことばかりを告げられた者が、現在御年十一歳である。漢方生活のお陰で腎臓の数値も正常範囲内。立派な体躯となって先輩格の若旦那を押しのけ、今や拙宅の長然と鎮座するに至った訳で、お嬢の場合がどうかは分らぬけれど、昨日辺りのモリモリ食べる食欲だの、雀を捕まえてくる活力だのを目にし、全くの能天気の楽観視が論外なのは当然としても、必要以上に悲観して考え過ぎなのもいけないな、と改めて心に云い聞かせた。今日のこのお嬢の姿、今日のこの一日を大切にせねば。そう、メメント・モリよりもカルペ・ディエム。いまを生きよう。