双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

新緑へ向かって

|散輪|


実に三か月ぶりの散輪は、昼ごはんを食べに山の食堂へ。
そこから腹ごなしにちょっと先まで走って帰って来た次第。

猫らのお世話と掃除を済ませて、十一時半頃に出立。相棒は勿論グワイヒア号、久々の散輪にして久々の山の道である。途中目にした田んぼは何処も、すっかり土がおこしてあって、用水路には水が放たれていた。田植えが近いんだなぁ。さてと。いつもの県道へ出たら越境、隣町へ入って真っ平の一本道。その先は丘陵をひとつ越えて工業団地を抜け、いざ山の道へ。いつもと同じよに…とはゆかぬかな、やはりちょっときつい(笑)。道々車輪を止め、山の景色を写真に納めるなどしつつ、のんびり愉しく走る。


のんびり走る四月の山の道。山の春の進みはゆっくりだ。


良い塩梅にお腹が減った頃、丁度目的地の山の食堂へ到着。廃校跡につくられた施設の中に在って、前回は懐かしい感じのカレーライスを食べたのだったが、今日はあったかいお蕎麦にしよう。開け放たれた掃き出し窓から心地よい風の入ってくる、窓際のテーブル席へ腰掛けて、天ぷらの乗ったお蕎麦を頂く。天ぷらは小さなかき揚げと山菜?コシアブラかしら。小皿にはキャベツのお漬物と、小ぶりのお稲荷さんが一つ。うん、美味しい美味しい。
食べ終わって暫し、セルフサービスのお茶を飲みながら、風にあたって少しぼんやりした。未だこんなに山桜が咲いて居るんだな。と、風に運ばれて山桜の花びらがふわり。窓から入ってきてテーブルの上に着地した。嗚呼、気持ちの良い天気だなぁ。

山の食堂を出て、少し先まで足…ならぬ車輪を延ばすか。程無く広域農道との分岐を過ぎると、交通量はがくんと減る。先へ進むに連れて道幅も徐々に狭まり、やがては軽自動車が辛うじてすれ違える程度の細道となった。昔は皆この道を通って越境して居たのが、広くて新しい広域農道の通った現在では、主に山間の集落へ住まう人々が生活道として使うだけになってしまった風である。しんとひっそり。緩い登りの続く細道の下には沢水が流れて居て、薄暗い木立の隙間から明るい春の光がこぼれてくる。


くねくねと続く山の細道は空気がひんやり。静けさの中、水の音と鳥の声と。誰も居ない。


山の木々の枝。今は未だ薄着で頼りないけれど、黄緑の若葉がこれからあっと云う間に育って、五月になれば緑濃く茂るのだろう。好ましい感じの木陰に丁度良い岩を見付け、腰を下ろしておやつを食べた。さてと、そろそろ折り返して帰ろうか。帰り道は下り坂だからスピードに乗って、肌寒さにウィンドブレーカーのジッパーを首まで上げ、風をびゅびゅうと切りながら走った。
行って帰って凡そ35キロの春の散輪。久しぶりに走って、清々しくなって。山の季節はちゃんと新緑へと向かって居るよ。


輪郭をぼかしたよな、ふんわりにじんだよな、淡い春色の水彩パレットみたい。来て良かった。

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