双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

風を待つ

|散輪|


ようやっと良い風が出て来て舟が進み始めたなぁ、と安堵して居たら、四月に入った途端に、ぱたり。風は止み、まったくのベタ凪となってしまった。かと云って、やみくもに漕いで進もうとすれば、方向を失って彷徨うばかりか、体力も消耗するばかり。即ち、櫂は在れども動けず。我々の小さな舟は海原の真ん中にぽつんと居て、只じいと動かずに風を待つしかないのである。やれやれ、上手くゆかぬものだ。しんどいねえ。

そうだ。しんどさの中で薄らいだ身体感覚を取り戻さねば。思いの外天気が良かったので、グワイヒア号に乗って走りに出た。さて、どうしようか。お馴染みの海沿いの旧街道経由で隣町まで行くか。久しぶりだな。普段は交通量の少ない海の道だが、巷じゃ大型連休と云うので県内外の車が行き交って忙しない。途中で折り返して帰ろかな、とも思ったけれど、潮風の匂いが嬉しくてそのまま進んだ。下って登って、一人きりの海沿いローラーコースター。やがて大型商業施設の裏手を過ぎ、バイパスから逸れて古い道へと入れば、さっきまでの忙しさは何処へやら。いつもの見慣れたのんびり風情だ。
踏切を渡って駅前に出ると、意外にも街は静かだった。大型連休と云ったところで、皆が皆、一週間も十日も続けて休める訳で無し。やっぱり暦通りの人たちだって結構居るのだな、と分かって少しほっとする(笑)。商店街を抜けて、馴染みの喫茶店ピザトーストと珈琲の昼食。ふうと人心地ついて憩った後、ぽっかりと空いたみたいな昼下がりの裏通りを走って、海の道へと戻った。さあ五月だ。緑の季節。どうか良い風が吹きますように。



坂の上から海を眺めて、暫しぼんやりとし、水平線の向こうへ心を逃がす。

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