双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

Requiescat in pace

|縷々| |音|


死の気配に包まれて居た人の訃報は、突然の不意の訃報よりも、重たい。
重たいけれど「遂にその時が来てしまったのだな」と、
遠からず訪れるのだと云う、確かな予感みたいなものに先導されて、
思いの外、動揺せずに事実を受け入れられるよな気がする。
ただ、その死によって、自分の中で (自分でも意外なくらい)
大きな存在であったことを、改めて知ることになろうとは。


今年の一月に観たその人の骨ばった指先は、静かに命を削りながらも
一音一音を慈しむよに、静寂の中で、美しい音を紡いで居た。
はらり、こぼれた前髪から覗く表情は、穏やかだった。
音楽であれ、詩であれ、絵画であれ。
人の死の後も、作品はずっと残る。
ここ数日、ひとりのときは、残された音に耳を澄ませて居た。



嗚呼。ずっとこの曲が好きだった。
死の影に包まれながら、なんて穏やかに、丁寧に、大切に弾くんだろ。

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