双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

剣菱の失踪(と帰還)

|猫随想|


二日前のこと。剣菱が丸一日半、姿を消した。すっかり軒下住まいとなってからは、律儀なスケジュールに則り、一日も欠かさず姿を見せて居たし、行動範囲もここから見渡せる程度で、遠出などしない筈。まして、不妊手術を施した身であるので、さかり云々のしがらみとも無縁である。生来の用心深さからして、他所のお宅で世話になって居る、なんてのも先ず在り得ない。嗚呼、剣菱の身の上に何か、良からぬことでも起こっただろか...。
暇を見て、Aちゃんと二人して付近をぐるぐると捜索するも、何処にも姿は見当らず。又、考えたくは無かったが、交通事故の可能性も拭えぬため、その痕跡らしきを車道に探ってみるも、それも見当たらず。もしや、何処ぞの物置だの小屋だのへ入り込んで昼寝でもして居るうちに、知らず戸閉めとなってしまったか。或いは(是も考えたくは無いけれど)、心無い輩にでも捕まってしまったのか。どうか無事で居てくれよ、と案じながら、心落ち着かぬまま一晩を過ごし、明くる朝。夜の間に寝箱へ帰って来た様子も無く、店を開けても尚、未だ剣菱の戻る気配は無かった。
やがて昼を過ぎ、ぼんやりと裏口で段ボール箱など潰して居たら、野原の草むらに、黒い頭のふと見えた気がして、ほんの気休めに「おーい」と呼んでみると、まさかの「ニャー!」 剣菱だ。剣菱が戻って来た!兎のよに、枯れ草の中をぴょんぴょん跳ねながら、嗚呼、こちらへ向かって元気に走って来るじゃないか。「お前、心配したんだよー。一体何処でどうして居たの?」 しかし、こちらの心配をよそに、当の剣菱は何食わぬ風である(笑)。
当人の口から事情が聞けぬので、結局のところ、彼女の身に何が在ったのかは分からぬが、何が在ったか分からぬとは云え、この一日半の間に何かの在ったのは確かであって、それが証拠に未だ、些かのピリピリと警戒した様子が抜けずに居るのは、少なからず、おっかない思いをしたのであろう。まぁ兎にも角にも、無事に帰って来てくれて、良かった良かった。けれども剣菱が軒猫である限り、こうした心配事は以降もずっと、付いてまわるだろ。それも含めての、お前と私の縁なのだな。

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