双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

店仕舞いの後で

|縷々|

店を仕舞い、仕事を終えた後。
しばしば誰も居らぬ店内に、
独り腰掛けて、珈琲を飲む。
或るときは、角の卓に。
或るときは、窓際の卓に。
只ぼんやりすることも在れば、
本の続きを読むことも在る。


ほんの十分かそこいらだけれど、
そうして腰掛けて珈琲を飲んで居ると、
灯りの塩梅はどうかしら、とか
壁との間隔はどうかしら、とか。
何かしらの事柄に気付くことも在って、
そんなときは、一寸だけ手直ししたりする。
あんまりにも些細なことだから、きっと
お客さんは気付かぬかも知れない。
でも、気付かぬくらいで良いのだ、と想う。
いつ来ても、何も変わって居ないよに、
そんな風に見えるのが良いのだ、と想う。


夜の店内に、ぽつん。
私が私の店でお客になれるのは、
唯一この、店仕舞いの後だけ。

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