|忍び|
ビルボ君。君が拙宅へやって来たのは丁度一年前、梅雨に入って間も無しの、未だ肌寒い夜。あの夜の救出劇(◆)から、早いもので一年の月日が経ち、真っ暗な駐車場の側溝の中で必死に助けを求めて叫んで居た、小さな小さなコッペパン程しかなかった子猫が、今ではすっかり逞しく見違えたものだね。君は確かに、アーロンの印を持ってやって来たのだ、と想う。でも君は君。無口で控えめで、辛抱強く、鈴が嫌いで、物分りが良くて。近頃では茶目っ気や、一寸した悪知恵もついてきたね。
謎のチック症。ピピンとの初対面。手探りで続けた日参。生まれつきの腎臓の障害。新年からの同居、などなど。この一年の間に色々なことが、本当に色々なことが在ったけれど、縁在って旅の仲間となって、こうして共に暮らしてくれて、有難う。あの夜。抱いて帰る道中、胸倉にしがみつく小さな命が伝えてきた、心臓の鼓動と体温。私は決して忘れまい。
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ビルボ、一年の記録。