双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

余裕

|若旦那| |忍び|


概ね猫と云うのは、序列や縄張りに対する意識の強い生き物である。所有物に対しても同様で、それが何かの拍子でどうにかしたとなれば、小競り合いだの喧嘩だのの勃発することも珍しくない。先日、散髪に行こうと身支度を整えて居たら、若旦那最大の気に入りにして唯一不可侵の砦”つぶれキノコ”の上に、何故か悪びれもせず忍びちゃんが。嗚呼、こいつは一悶着起こるやも知れぬな、と主は案じた。
ところが、キノコ上の忍びを確認した若旦那。寝台を降りてするり隣室へと消えると、何を想ったか。やはり最大の気に入りである筈のおもちゃ”ネズミ餅”*1を口にくわえて戻って来て、忍びちゃんの傍らへ、ぽとり。是を落として去り、自らは陽のあたる窓辺に寝転んだ。あらら。偉いねぇ、懐が深いねぇ。大袈裟に誉めそやせば、陽だまりに鼻面をぐぐと上へやって、得意気の顔。
果たして年長者の余裕か。或いは、一寸した気紛れか。何れにせよ、気に入りを二つも譲ってやるとは、中々感心なことである。



何らの疑念も抱かず、”つぶれキノコ”に眠る忍びちゃん*2。手前の黄緑色が、件の”ネズミ餅”である。

*1:抱えて足蹴にしたり、水鉢へ水没させたり。自分の寝床へ運んだり、甲斐甲斐しく抱えたり。苛めて居るのか可愛がって居るのか、さっぱり分からぬが、何しろ相当の気に入りであるのらしい。

*2:案外、確信犯だったりして。

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