双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

土曜随想

|雑記|


細い雨に纏わる冷えた湿り気が、午後の針の進むに連れ、
何処からともなく白く濁った重たい霧を運んできて、
やがて僅かばかりの日が落ちると、不思議と明るい
群青色の宙の中に、家並みや電柱、路肩の車など。
形在るものを影絵の黒で浮かび上がらせる、と云う
印象深い景色が出現し、気付けば自我を離れて只、
ぼんやりと是に見入りながら、馴染みの在る今朝ほどの
小さな失望など再び想い起こして、ふと可笑しくなった。


土曜日の朝の来るたびに、この日が休みであったなら
どんなにか素敵だろう、と想わずには居られないのは、
もうずっと昔から変わらぬ子供じみた習癖なのであり、
天気や季節に関わらず、私にとって土曜日と云うのは、
一週間の内にとりわけ清清しく、爽やかな心象を抱かせる。
もしかするとそれはカレンダの上の色分け。つまり平日の黒、
日曜や祝祭日の赤の中に在って、唯一土曜日の青だけが、
何か特別で素敵なもの、と感じさせた所為なのかも知れない。
けれど幼少の頃、自作のカレンダの土曜日を青ではなく、
確かコバルトグリンで書いた記憶が在る。だから私の中の
土曜日は、あれからずっとコバルトグリンなのだ、とも想う。


思い巡らすうち、件の霧はしんと音も無く、益々そろそろと。
通り向かいがようやく確認できる程にまで、もったりと深く
垂れ込めて居た。こんな風に濃い霧を見るのは久しぶりで、
気圧のもたらす倦怠が白い緞帳の中へ穏やかに消えてゆくよな
心地がして、肩を上げてはひとつ深く息をはき、何とは無しに、
須賀敦子のエッセイ『遠い霧の匂い』の中の一節を浮かべた。

朝、目がさめて、戸外の車の音がなんとなく、
くぐもって聞こえると、あ、霧かな、と思う。

<