双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

活動日誌

|雑記|


市民ボランティア発足三日目。我々は市が管理するボランティアではない。あちらが十分に機能しないことに痺れを切らした市民有志が、あくまでも自主的に全くの手弁当で活動して居るのだが、社協の募集に個人で登録をしたものの、何やら埒があかないと云うので、より自由に動けるこちらの事務所へ移って来た人も居る。とは云え、市の災害対策本部と連携しながらの活動である。会長が市議と云うこともあり、本部との頻繁なやり取りの殆どを会長が執り行って居るが、本部は何かと対応が遅く、結局はこちらで判断して独自に動いて居るのが実情。主だった活動内容は、崩落して通行の妨げとなったままのの石塀を、路肩へ寄せるなどの力仕事や、地震で滅茶苦茶になった家財類の片付けが困難な高齢者の手伝い、地域への声掛けや見回りなど。又、本部からの話では、人出は足りて居る、物資も足りて居るとのことなのだが、それはあくまでも避難所の中だけの話で、未だに全体が把握できて居らぬばかりか、届いて溜まる一方の物資をさばくことも出来ないままだ。各地区に数箇所設置された避難所は、現在、町の中心部の一箇所に統括され、自衛隊による炊き出しが行われて居る。ところが、炊き出しで出される食事がおにぎりだけであったりと、首を傾げざるを得ない事ばかりなのだ。



本日午後。県議が事務所を訪れ、対策本部のあまりの煮え切らなさには、苛立って仕方が無い!と語気を荒げて居た。福島県民の受け入れは引き受けたものの、市内がこの有様なのだから、そちらが後手後手となって居るのも、容易に想像がつく。食料や生活用品など、県内のNPOから届いた小さな物資を預かって居たので、数も丁度良いだろうし、是を福島県民の方々の避難所へ届けよう、と云うことになった。一応、本部へお伺いをたてると、案の定、一旦本部で預かってから検討する、とのこと。是では、いつのことになるやら分からない。お忙しいでしょうから、本部のお手を煩わせなくとも、こちらで直接届けますよ、と云うと、上に聞いてみるだの何だのかんだの、さっぱり埒が明かない。はいはい、と上の空で返事だけして、直接持って行ってしまうことにした。「本部からの要請で、物資を持って参りました〜。」 嘘も方便である。まぁ、一事が万事こんな調子である。しかし、何故こんなにもたついて居るのか。県議に聞けば、本部に設置された社協は殆ど形だけ。各地区毎の支部長は、召集すらされて居ないのだと云う。早急に各地区の支部長を招集して、其々の地区の被害状況や高齢世帯の有無などの情報を集めて居れば、給水所の適切な設置や、物資、支援、人手の配分もスムースに運んだ筈である。ところが、それが未だに無いと云うのでは、県議でなくとも呆れる他に無い。又、折角の自衛隊の機動力も十分に生かせて居らず、実に勿体無いこととなって居る。何にせよ、指令系統が有耶無耶なのだ。勿論、役所だって必死なのは分かる。十分に分かるけれども、自分たちだけで手一杯なのであれば、おかしな見栄など張らずに、役割の一端を頼るべきである。
本日、或る給水所で、残り僅かとなった水をめぐって住人たちの間にパニックが起こり、その知らせがこちらへすぐに入って来た。本部に連絡すると、そんな話は知らないと云うので、市の職員に確認に向かわせたところ、給水所には既に人が居なかったため、そのまま帰って来たと云う。馬鹿者めが!そのまま手ぶらで帰って来る奴が何処に居るか!近隣住民を訪ねて詳しい事情を聞くことくらい、誰でも思い付くことだろうが。皆が喉から手が出る程に貴重なガソリンを、只の無駄にしおって。恐らくは、断水の続く住民たちの間で、長丁場のイライラが爆発したのであろう。メンバー所有の200Lタンクに、事務所近くの別のメンバー宅にて自家水を給水。県議が本部に要請し、役所の職員にも予備のポリタンクを持って来させて、是にも給水。数十分後には、件の給水所へ向かい、是を設置して来た。と、其処へ又、別の連絡が入る。県外から飛び込みで炊き出しに来たグループが幾つか在って、予定して居た地区に来て居るのだが、聞いた状況とは違うみたいだ。どうしたら良いか?とのこと。どうやらtwitter上での情報を聞きつけてのことらしいのだが、何処でどう云う風にそうなったのやら。住民が食料に困窮して居るよな話なのらしい。数日前に流れたニュース映像で、高齢者の一人が口にした 「握り飯一個しか出ない。」 の一言を受けてのことではないか、と推測。ちなみに、このニュース映像の直後、対策本部には非難の電話が相次ぎ、翌日早速に、汁物が加わった上、弁当まで出たのだと云う。それにしても、何とも申し訳ない話ではないか。折角、自腹で遠路はるばるやってきて貰っても、一部を除く地区でライフラインの復旧した現在、不便は相変わらずではあるが、ささやかながらも自宅で煮炊きできて居る。ならば、それこそ避難所へ行って頂いて、其処で炊き出して貰うのが最良なのではないか?自衛隊の炊き出しは、どのみち米だけなのだし、幾つかのグループを合わせれば、収容人数分にはなるだろう、と。其処でまたもや本部へ連絡。しかし、そこは本部である。ああだこうだと、御託を並べるばかり。だから、もう其処まで来て居るんですってば!美味しい食事が、既に出来て居るんですってば!結局、許可は降りず、各グループの皆さんには、当初に炊き出しを予定した場所にて、その近辺の皆さんに振舞って貰うしかなかった。何だか、無性に遣る瀬無かった。
帰り際、「ホビちゃん、ご苦労様。花粉症酷いんだって?」 と県議に呼び止められ、持って来た箱の中から、点鼻薬と目薬を一つずつ頂く。嗚呼、有難い。頂いた薬をポッケに突っ込むと、人っ気の無い夕暮れの道に、義妹のママチャリを漕いだ。


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実家へ寄って、風呂に浸かって居ると、突如激しい揺れに襲われる。風呂桶の中の湯が、物凄い勢いで外へ溢れ出す。「おねえちゃん!早く出てっ!!」 母の叫び声で、さすがに慌てて脱衣所に出るや、なかなか治まらぬ揺れに、家族がざわついて居る。速報によれば、震度5強震源はまさに隣町であった。その後も小刻みに余震は続き、ドンと云う大きな地響きが止まない。「あんたねぇ、肝が据わってるとか、そう云う問題じゃないわよ。」 化粧水をパタパタやりながら、悠々と脱衣所から出てきた私を見て、母が呆れた。ふと考える。あのまま悠長に風呂へ浸かって居るところで、家が崩れてしまったら…。素っ裸で発見されるのだ、私は。
「先程入ったニュースです。今日午前、某市にて38歳の女性が地震から四日ぶりに救出されました。救出に当たった自衛隊員によれば、女性は全裸のまま、横倒しになった風呂桶の中に居るところを発見され、この風呂桶が建物の崩落から身を守ったのだろうとのことです」 などと、あの素敵な登坂アナに真顔で読まれてしまうのだろか…(笑)。

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