双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

さらば九十八型

|モノ|


以前にも書いた記憶が在るので、ご存知の方も幾らか居られるかも知れないが、拙宅の骨董品の如き電脳箱に入って居るのは、是が実に窓式の九十八型。おい!一体いつの話だヨ!と呆れられて、ご尤もである。思えばかれこれ十一年。我ながらまぁ、よくぞここまで辛抱したものと思う。否。ここまで来ると、もう八割方が意地であるか。何しろ、その不便さと云ったら、無い。不便なんてものは疾うに通り越し、通り越した末、殆ど意地だけで使いこなしてきたよなものである。しかしながら、ここへ来て、細々ながらも頼みの綱であった火狐にも、「お宅さんの九十八型、もう面倒みられねえよ。」 と見放され、いよいよ電脳箱を買い替えねばならぬ事態と相成った訳なのだ。
して先日。いつぞやの電視箱の購入で得た、エコポイントの商品券・一万五千円分を懐に、いざ家電店へと出向けば、平素滅多に足を向けないので、先ずは矢鱈に広い店内の何処へ向かえば良いやら。うろうろとしながら程無く売り場を見付け、至極当たり前の仕様で簡素なものは…と探れば、大容量だのハイスペックだの、随分と賑々しい一角の、実に隅の隅。”現品処分 \43,000!” と小さな紙切れの貼り付けられただけの、何とも奥ゆかしい特価品を発見。電源すら引かれて居らず、端から申し訳程度の扱いである。ふと、地味過ぎるパンフレットが目に留まる。
『必要にして十分』 『コストとパフォーマンスのベストバランスを追求』
パンフレット同様、なりも他所に見劣りするくらい地味だし、変に凝った意匠も、余分な付属も付いて居ない。この潔いくらいの簡素っぷりが、或る意味で孤高の佇まいだ。私風情にゃ是に十分。其処へ店員氏がやって来たので、一応はあれこれ説明を仰ぐものの、腹は既に決まって居るので上の空だが、何にせよ気分が宜しい。それから五分と経たずに会計場へと向かい、現品処分品の為、是を箱へ詰めて貰って居る間に、奥の売り場で二十七万円の按摩椅子に寝そべり、暫し至福のひと時を過ごした。小ぶりな箱を受け取り、自転車の荷台に積んで走れば、そりゃ軽い鼻歌のひとつも出ると云うものだ。
さて。持ち帰ってからが一仕事であった。お古に仕舞ってある、ガラクタ、もとい、データ諸々を、新居へ引越しさせねばならぬ。何しろお古は骨董品故、いちいちが面倒で、あてにして居たUSBメモリが使えないなど、予想外の作業に幾らか難儀したものの、半日程かかってその大方が済み、ただ今こうして、全く快適過ぎる程の電脳環境が整った、と云う訳なのである。とは云え、これら両者の間に、果たして幾型式の隔たりの在ったものかしらん。この七型ってのは、随分とまぁハイカラで…。差し詰め、永い昏睡から覚醒したよで、軽い困惑の心持ちだ。あちこちの使い勝手の違いにも、未だ慣れず。
お古よ。随分と世話になったけれど、ようやくお役御免だ。心置きなく引退してくれ給え。永い間ご苦労さん…。

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