双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

ダブリン上等

|映画|


嗚呼、是はミュージシャンの撮った映画なのだな。劇中の音楽は ”映画の中の音楽” と云うよりも、むしろ、音楽 = 登場人物 として、何より物語そのものとして描かれる。正直なところ、演出の拙さは否めぬし、人物たちの生き様と同様に、何処か不器用で、たとたどしく、必ずしも上手く出来た作りの映画とは云い難いのだけれど、饒舌でないからこそ伝わってくる感触が確かに在って、主人公の二人を始め、冒頭の売上げ泥棒の青年とのやり取りや、主人公の父親、楽器店の店主らなど、心善き人々が心を通わせて紡ぎ出すささやかな物語は、何故だかじんわり染み込んで、心の隅っこに残るんだな。*1
主人公の一人であるチェコ移民の女性が、夜更けに電池を買いに行った帰り道に、歌詞の未だついていなかった曲へ、メモ切れを片手に歌詞を乗せながら、夜の中を彷徨うよにして歩く場面。静かに流れ込んでくる、切なさ。



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で。”ダブリン” で ”音楽” とくれば、是でしょ?

ザ・コミットメンツ [DVD]

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こちらは前述の 『once 〜』 と趣きは全く異なるけれど、やっぱり音楽が真ん中に在る映画。あんまりにも好き過ぎて、もう百回近くは見て居るのじゃなかろか。*2この映画が単なる青春群像劇だけに終わって居ないのは、何気無い公団の風景や街角、市井の人々の生活。そして登場人物たち其々が、物凄く活き活きと描かれるリアリティに依るのだと想う。バンドも決してひとつじゃない。幾多のエゴがぶつかり合い、熱意や想いにも僅かなズレが在る。「ダブリンで労働者階級に生まれたら、成功する道は三つしか無い。サッカー選手、ボクサー、そしてミュージシャンだ。」 失業保険で暮らす者。バスの車掌。生肉倉庫勤め。チップス売り。冴えない毎日から抜け出すために、皆はジミーの仕立てた船に乗り込み、共通の夢を追うひとつの仲間となるのだけれど、やがてバンドが軌道に乗り始め、成功の約束される寸前のところで見事崩壊。バラバラ散り散りとなってしまう。しかしながら、その後味が、ほろ苦くも妙に爽やかなのは、たとい僅かの間であっても、彼らの船に我々も乗っかって、彼らの見た夢を共に見て居たのだ、と云うことに気付かされるからだろか。*3


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同じく、ロディ・ドイルが原作の映画と云うので。


こちらは音楽映画ではないけれど、やはりアイルランドの市井の人々を描いた、可笑しくもほろりとさせる、或る家族の物語。カソリック社会における中絶の問題が軸には在るのだけれど、悲惨をユーモアで吹き飛ばす逞しさ (特に女たち) には敵わない。そしてここでもやはり、一家の父親を演じるのはコルム・ミーニィなのだねぇ。

*1:この主人公って、コミットメンツのアウストバン役だった人なのね。

*2:ビデオは二本を観潰して、一昨年とうとうDVDを買った(笑)。

*3:大昔のエントリに感想が→http://d.hatena.ne.jp/hobbiton/20050219

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