双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

取柄

|雑記|


見目取って器量好しと云うのでなく、ならば気立てのすこぶる好いと云うのでもない。
なりは頓着が無いからいつだって構わぬし、少々偏屈な上、性根は案外と腹黒い。そんな私が、是だけは大きな声で取柄と云えることが在るとするなら、それは恐らく 「器用で手早」 かも知れない。己で云うのは野暮と承知の上だが、何しろ滅法仕事の覚えが早いので、調理場にサービスカウンター等など、職場は何処へ行っても重宝がられたし、是で得したことは在っても、損をしたことは先ず無い。*1何々?自慢話は止せと?まぁ諸君。そう切ないことを云いなさるな。とんと冴えない三十路女の唯一とも云える取柄なのだから、是くらいは許してくれ給えよ。生き方の要領は悪いが、仕事に関しちゃ、器用で要領も良いのだよ(苦笑)。
さて。何故今更、ここでこんな話をして居るのか。
「恐ろしく早いなぁ。ホビちゃんはつくづく器用な人だ。仕事人と云うのか、要するに職人向きなんだね。」
先日、編み物の傍らに掛けられた言葉であるが、ふむ。成る程、確かにそうかも知れぬ。実は自分でも薄々感付いては居た。私はものの覚えも早く、大抵のことなら器用にこなす人間ではあるが、全くの無から新たに何かを創造する、クリエイタだとかアーティストだとかの類からは、きっと遠い。元々在るものを器用に覚え身に付け、黙々とこなし自らの糧とするタイプ。つまり職人向きではあっても、所謂、芸術家云々の資質ではないのだ。身近なところでは、Aちゃんがどちらかと云えば後者に当たる。彼女はまるで不器用なのだけれど(笑)、天性のセンスみたいなものが在って、いつもほほうとさせられる。編み物について云うなら、私は基礎をみっちりと積み、段階を経てゆく質であるのに対し、彼女は初心者であるにも拘らず、いきなり模様編みの大物に手を出す。曰く 「ひたすらメリヤスだのゴム編みだので、欲しくも無いものを作るのは嫌。どうせ編むなら、自分の欲しいものを作る方が良いに決まって居る。」 そう云われればそうかも知れぬが、無謀と云われれば無謀でもある。しかし、そこはやはり資質の違いと云おうか。彼女は時間はかかっても、実にマイペースにやり遂げてしまう。
また、台所仕事について云えば、私は片付けながらでないと作業が滞る。散らかった中で無理に仕事を進めると、是が非常にストレスとなって、いらいらして仕方が無いのである。湯を沸かすほんのちょっとの間に、洗いものを片付け、流し台のまわりを片付け。ついでにガス台の油はねも、ささと拭かずには居られない。一つの時間の中に一定のリズムのよなものが出来て、それによって滞り無く、さっさっさと作業が流れてゆくのが好きなのだ。きっと。手仕事然り。調理場然り。気性から手早から、父方の祖母が私とそっくりであったことを考えると、是もやはり血筋なのだなぁ、とつくづくそう想う。得にはなっても損はせぬ。良いところを受け継いだものだと、感謝せねばなるまい。それにこの、雑草のよな逞しさと合わせて、これから先、身の上に何かが在ったとて、恐らく食いっぱぐれも無かろう。
とは云え、気の利いたデザイン力に長けた人や、独自のセンスを持ち合わせる人などに出遭う度、じりじりと羨望混じりに、大きな隔たりを痛感せざるを得ないのであるが、それはそれ。互いに持って生まれた資質の違いなのだし、基礎の部分に自分の解釈を交えたり、手加えをすることでなら、自分なりの色は付いて居るよに想う。
只、何か自分の手を掛けたことが表立ったり、まして名前が出たりすることに関しては、どうにも勘弁願いたい質ではある。*2自分の手掛けたものは、あくまで無名で宜しい。仕事はきっちり、黙々と。そもそも裏方が性に合って居るのだ。

*1:ちなみに全て現場仕事。デスクワークは未経験なので、是については殆ど自信が無いです。

*2:にも拘わらず、度々 「ホビちゃんは何処に居ても目立つ。」 と云われる(笑)。どうして?こんなに謙虚で控え目なのになぁ。

<