双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

蔓バラの茂みに死す

|戯言|


北からの風に、季節が入れ替わった途端
ぱたり暇となり、そうかと云ってぐつぐつ
只時間を持て余すのは、癪であるので、
Aちゃんは庭仕事に、私は水周りの掃除に。
各々没頭して居たのだが、ひょいと様子を
伺いに表へ出て、剪定し終えたばかりの
蔓バラの茂みへ足を寄せたときであった。
「!!!」
火のついた線香の先っちょを、きゅっと
押し付けたよな、そんな猛烈な熱の点が
右の人差し指の腹を襲う。と、その直後。
目の前を一匹のアシナガバチが…。
たった今、私は蜂に刺されたとこを知った。
お、おい!指先が早速、赤紫になってゆくぞ!
慌てて店内へ戻り、ええと、どうするんだ?
ああ、そうだ。水だ水。水で洗い流すのだ。
刺された個所をぎゅうと押し出すよにして、
神妙な面持ちで洗う。気が済んで、指先を
軽く押さえながら、再び考える。うむ。ここは
とりあえず、オキシドールで消毒しておこう。
脱脂綿にオキシドールを染ませて、患部へ
当てておく。ええと、それで?どうするんだ?
その間も、指先はズキズキと痛みを増してゆく。
おお、そうだった。確かステロイド系の軟膏だ。
丁度リンデロン軟膏が見付かったので、それを
塗っておいた。既に指先は感覚が怪しい。
近くに医者が在ったが、ここは一先ず様子を見る
こととして、熱いほうじ茶で気を落ち着ける。


はて。蜂に刺されたのは三度目か、四度目か。
何れの場合も、腫れたくらいで事無きを得た。
しかし今回は、赤紫だ痺れだと様子がおかしい。
今はどうと云うことが無くとも、明くる朝、
人知れず命を落として居た…なんて馬鹿げた
話は先ず在るまいが(笑)、しかし蜂に刺されて
死ぬなんてのは、ともすると。儚くも夢見がちな
少女趣味で、何やらロマンチックなんじゃないか?
初秋の蔓バラの茂みで、蜂に刺されて死んでゆく。
嗚呼、何だか森茉莉の書く少女みたいだなぁ。*1
倒れる瞬間、霞みのかかったスロウモーションに、
小脇に抱えたヴェルレエヌの詩集が、ぱさと落ち。
栗色の細い巻き毛が、はらはらとバラの枝へ…。
でも私、栗色も巻き毛も何も、そもそもが烏の濡羽
の真っ黒髪。*2しかも強固な直毛で、且つ短髪。
それに耽美な美少女(国籍不明)どころか、妙齢。
え?「森(茉莉)ガール」?それ、 TV Bros. よね。
ママン、おかしいの。天蓋が段々にぼやけてゆくの。
アデュー、アデュー。私はもう死ぬんだわ…。


脳味噌に毒でも廻ったか。そんな戯け呆けた
妄想など巡らす内に、小一時間程が経過し、
些か腫れては居るのだろうが、どうとも無い。
フンと鼻を鳴らし、何食わぬ顔で仕事へ戻る。
神様は正直ね。そして私って、とっても頑丈。

*1:実はあまり良く知らない(笑)。

*2:所により、白いものも。

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