双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

|縷々|


考えるに、身の廻りにまつわる日々の些細と云うのは、
おしなべて、取るに足らぬものであることが多いものだが、
取るに足らぬものであるが故、おいそれ粗末に扱っては
いけない。日々の些細が日々の積み重ねとするなら、
恐らくは、後々となって物を云う。万年筆の軸を緩めて外し、
空になったコンバータへちろちろとインキを詰めながら、
ふと、そんなことを想う。


文机の抽斗の縁にうっすら、白く埃が乗って居る。
たったの一日掃除を怠っただけだのに、怠りは目に見える
形で示されて、そうやって物云わず、こちらの行いを
じいと窺って居る。いっそ大物に構えて、知らぬを通すのも
一案かも知れないが、そもそもがそれのできる質でないから、
やれと腰を上げ、固く絞った雑巾でもって、さっとやる。


年寄りじみた着古しの茶羽織から突き出た所が、
梅雨どきの夜にうそ寒い。文机の端に、いつかの旅先の宿の
マッチ箱を見る。白と黒。伸ばした手先の影が鉛筆の影を隠す。
振ってみたが音はせず、引き出すと空になって居た。

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