双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

いつもなら僕は汽車に乗るのが好きなんだ。ことに夜の汽車が。

|徒然| |本|


季節に、日々に。
挨拶に交わす天気の話などと云うのは、
くだらない、つまらない。と云う人が在るけれども、
果たしてそうだろか。確かに、天気の話は当り障りの無い
話題として口にし易く、故にありふれて聞こえるから、
それを聞き指して、つまらぬくだらぬと云う人たちの
心中は満更、分からないでもない。一体、歳若い頃の
私自身がそうであった筈ではなかったか。
天気の話などして、深刻に受け取る者など居やしない。
芸の無い、ただの使い古されたご機嫌伺いじゃないか、と。
しかし、年季を重ねてゆくに従って、こうした他愛の無い
会話は会話なりに、何かしらの意味も在ると知るにつれ、
そんな風なものを、案外良いとしみじみ感じるよになる。
誰しもホールデンを、一旦は卒業するのだ。
若さ故の奢り、厭世、悪態は、恐らく恥ずべきものでは無い。
むしろ過日の愛すべきものとして*1。また、自身の履歴として
自分だけの知る箱の中にでも、仕舞っておけば良い。
正しい反骨を持つ者の未熟は、やがて段々に熟成してゆける。
ホールデンを葬るのでは無く。其々の心に仕舞っておいて、
それが本当に必要なときにだけ、ほんの少し。
さっと。鋭利な切っ先のよに、ちらつかせれば良い。


「何だか、雨でも降りそうですねぇ。」
「本当に。天気がはっきりしなくて嫌ぁねぇ。」
「それに肌寒くて。未だ半袖着て居ませんよ。」
「そうなのよ。昼間は良くても、朝夕が涼しくって。」
「今年はバラも少し遅かったですしね。」
「あ。そう云えば、あれって何処まで切り戻せば良いの?」


そんな風に天気の話が、ふくよかな何かを導くことも在る。
人との関係は、そう悪いものばかりじゃない。
若い頃には未だ気付けない、操れない、
そう云うものが幾つも在るから、面白いのだと想う。


ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

*1:まぁ、全部が全部、そうとばかりも云えぬのですが・・・(笑)。

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