双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

後日談

|雑記|


件の 『工人まつり』 は大盛況、普段は静かであろう雑木の森の中は、見渡す限りの人人人。小さな小さな奥会津は山間の集落が、この日ばかりは車と人とで溢れかえるその様に、もっとこじんまりした市なのだと思って居たから、予想を遥かに飛び越えて驚いてしまった。勿論、地元のお年寄りもお店を出しては居るけれど、それよか県外より出店の人たち、若手クラフト作家の人たちが目立ち、総勢何と百数十人もが出店の規模と云う。いやはや、参ったな。

さて、訪れて居る人の顔ぶれを見れば、やはり籠好きの小母様連が、圧倒的に目立ったが、それに混じって重ね着・巻物・ぺたんこ靴にキャス・キッドソンな人々。タイパンツや腰巻(?)に草木染めTシャツな人々も、同じく目に付く。常連と思しき出店者の話を、こっそり立ち聞きしたところ、どうやら某ナチュラル系生活雑誌上で、某人気スタイリストが紹介して居たとあって、今年は特に人の出が激増したのらしい。成る程ねぇ、と腑に落ちる。
森に隣り合う芝生の広場では、恐らく地元の商工会だろか。様々な食べ物の屋台を並べて居て、川魚を焼く美味しい匂いも漂ってくる。本当に素晴らしい環境だ。道中は実に美しい、実に鬱蒼とした山道で、さながら昔話に出てくるよな山の景色。麓には只見線も走って居たりと、大変長閑なものなのであるが、路肩に車を止めた列が延々と、会場近くまで続いて居り、中には車道にまではみ出た、無神経な駐車もちらほら。また、人でごった返す会場を、小さな犬を何匹も引いて歩く人。森の中は枯葉の絨毯、足場は決して良くない。其処へ来てベビーカーを無理無理押しながら、ようやく膝程の丈まで育った実生の苗を、車輪ごと踏んづけて歩って居る人も在る。折角の市だのに、一部の人のマナーの云々が目に付いて、些か残念な心持ちにもさせられた。主催者側としてみれば、こうして大勢に知って貰って、訪れて貰えることは大切なのだろうし、勿論、それでこそ続けてきた意味も在ろう。駐車場と会場をシャトルバスで繋ぐのも、不便な立地の条件などを考えれば、仕方の無いことかも知れぬ。
「道を開けて下さーい!!バスが入りまーす!!」 バスの停車位置付近に固まって道を譲らぬ人々と、誘導に汗だくで疲れ切った顔の警備員さんたち。催し自体が在る程度認知されて、それに伴い、来客数も随分と増えて。けれど其処からまた、訪れる人びとの意識の根付くよになるまでには、も少し時間が必要となるだろか。そんなことを、ふと考える。竹細工の店で、正方形の弁当行李を一つ、買い求めた。


その後、虚空蔵尊に立寄って、高い所から景色を見下ろした。眼下に在ったのは静かな山間の景色で、暫しの間、ただ心安らかに遠くを眺めやる。突然に天気雨が降ってきた。帰り道。道路沿いを平行して走る、白と緑の只見線を見た。こんな場所へ来るなら、こんな電車が相応しいと想う。私はやっぱり、車に乗るのが好きではないのかも知れぬ。

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