|小僧先生|
連休なんぞが終わって、やれやれのところへ、雨。
ついでに憂さも流れて、尚のことせいせいとする。
毎度のことながら、大きな休みの明けた後などと
云うのは、概ね、間の抜けて大層暇なものだから、
同じく暇を持て余して訪ねて来た、甥っ子である
ところの小僧先生より、先生一家の休暇で訪れた
水上温泉、上越線の話など聞いたりして過ごした。*1
「ブユートエーン!ネンコデンシャダヨ!」*2
何でも義妹の話によると、客車の色が青かったとかで、
先生、ブルートレインと云って聞かぬらしい。
「アァア、リョーモーシェンジャナカッタ。」
どうした訳だか先生は、湘南色と呼ばれる緑と橙の
旧国鉄車両に、並々ならぬ好意を寄せて居る。
いつぞや、本の中の写真をさして、是は何か?と
尋ねられた際に、その旨説明したところ、先生。
否、そうではなく是は何線か?と詰め寄るものだから、*3
私は然程電車に詳しくは無いし、つい面倒なので、
両毛線と教えてしまった訳なのだけれど、以来。
湘南色の車両は全て両毛線なのだ、と考えて居るらしい。
「まあまあ。その内、お伴しますから。」
「ふむ。君のその内は、果たしていつになることかね。」
「その内はその内です。ところで先生、長い時間平気なのですか?」
「何を云うか。できればうんと遠くまで行きたいのだ。」
先生の好きなもの。電車と猫とアイスクリーム。
私も好きですよ。
何想うやら。口をとんがらせる先生は、匙を握り、
好物のバニラアイスを、一心不乱に練って居た。