双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

心遠く

|縷々|

廬を結びて 人境に在り
而も車馬の喧しき無し
君に問ふ 何ぞ能く爾ると
心遠ければ 地自ら偏なり
菊を采る 東籬の下
悠然として 南山を見る
山気 日夕に佳なり
飛鳥 相与に還る
此の中に真意有り
弁ぜんと欲して 巳に言を忘る


庵を構え、人里に住まっては居ても、
家を訪れる車馬の喧しさは無い。
自問する。何故そうも静かに暮らせるのか、と。
心が世俗を遠く離れて居る故、住まう所も自然と辺鄙になるのだ。
東の垣根のもとで菊を摘み、
ゆったりとした心持ちで、南山を眺め見る。
山の気配は、夕暮れ刻が最も素晴らしい。
飛ぶ鳥は、連なりねぐらへと帰ってゆく。
此処にこそ宇宙の真実が有るのだ。
それを語ろうと想ったけれど、云うべき言葉はもう忘れてしまった。


         ― 陶潜 ―

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