双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

苦い憧憬

|徒然|


男であるとか女であるとか、若いとか年寄りだとか。物事を性別や年齢で推し量ったりすることは、殆ど無い質であるけれど、時折ふとしたところで、女であることの不便さを感じることは在る。*1
役割だの身体的なことだのと云うのでは無くて、行動や嗜好の制限、とでも云えば良いか。何しろ、私の嗜好はどちらかと云えば男性的であり、只ぶらぶらと徘徊するのも好きだ。按配の宜しい街並みや路地などを知れば、そこはつい、ふらりとやりたくなってしまう。別段、怪しい者と云うのでも、おかしな企みを隠して居るのでも無いにせよ、平日の昼間から、妙齢の女が独りで観光地でも名所でも無い所をうろつく様は、そこを日常の暮らしの場として居る人々にしてみれば、何処か妙と映るであろうと察しもつこう。多少なりと名の知れた街などであれば、そこいらに寛容である風にも感じられるのだが、それが例えば、場末の界隈なんかだと、どうもバツが悪いと云うのか。つまり、同じよな場所を独りで歩くにしても、仮に是が男であるのとでは、事情も随分と違ってくるよな気がするのだけれど、如何だろか。
ともすれば、旅先の宿屋にしても同じで、未だ学生の時分に、前橋へ一人旅に出掛けたときのことだったか。特にと云うのでは無かったが、予算の都合も在って比較的鄙びた安宿に向かったところ、年老いた女将さんが、こんな若い娘さんには気の毒だから薦められない、と云う。私自身は構わなくとも、女将さんにそう云われては仕方が無いので、結局は近くのビジネス旅館に泊まることになった、と云う想い出が在る。まぁ、その安宿と云うのが確かに、充分つげ風に草臥れた、昔で云うところの商人宿のよな宿で、泊り客の中には、長逗留と思しき出稼ぎ風情の男性も見受けられたのだけれども、もし仮に私が青年学生であったなら 「若い人にはどうかと想うけど…」 と云う前置きがあったにしろ、恐らくは、泊まらせて貰えたのではなかろか、と。
年齢も或る意味ではそうかも知れない。便宜上、三十代を 「若い」 部類とさせて頂くことをお許し願うが、年寄りの多く集まる界隈や店などに出掛けると、大概が 「おや、若いのが珍しいねぇ。」 と云うよな反応である訳で、それは非常に好意的であっても、そうなるとやはりこちらとしては 「生意気にも、若輩者がお邪魔致します」 と云う格好になる。いっそ三十代を終えたら、中年をひょいっと飛び越して、いきなり年寄りになってしまいたいものだなぁ、とは常々想うことであるけれど、チチ松村氏が中島らも氏との対談で、こんなことを云って居た。松村氏は二十歳の頃、どうにもこうにも年寄りになりたくて、わざわざ、年寄りが穿くよな裾をダブルにしたズボンに、ラクダシャツや開襟シャツ、と云うなりをして、年寄りしか入らぬよな喫茶店へ足げく通って居たと云う。いやはや、強者であるなぁ(笑)。さすがにそこまでは考えも及ばぬが、まぁ、その気持ちは何となく分からないでも無い。
私はどちらかと云えば古い考えの人間だから、男女平等を声高に唱えたり、年齢に対して神経を尖らせたりと云う質では無い。何かと称して、男の領分に無理矢理踏み入ることも、また、男に女の役割を強要するつもりも、毛頭無い。そもそも、やれ女だ男だ権利だ!とヒステリックに唱え叫ぶことで、皮肉にも、そこへ窮屈に縛られて居ると云うのか。解放を訴えて居るにも拘らず、その気負いが余計に、垣根を拵えてしまって居るよにも想えてしまう。尤も、フェミニズムだの何だの。この手の話は苦手であるし、第一、そんな柄じゃ無い。ただ。どっちだって、何だって良いじゃないか。肩肘張らず、気負い無く。ときに謙虚に、しなやかに。世の中や物事を考えられたら…。そんな風だから、自分なりに、何処となく後ろめたいよなことをするときには、つい気後れして、猫背気味の心持ちとなってしまうのだ。*2
余りにも堂々と大手を振りながらは、やはり些か気が引ける。是は上手い例えでは無いかも知れないが、昼の蕎麦屋で独り、一献やって居る若い女の人が居たとして、それが如何にも 「私、こう云うのも好きなんです!」 と云った風に、力んで気負った様であったとしたら。 「私、女なのに、若いのに粋でしょ?渋いでしょ?」 と、胸ぐらつかんで畳み掛けられるよで、何だか妙にいたたまれなくなって、バツの悪い心持ちとなってしまいそうである。見掛けたのが、隅っこに小さく、目立たぬよに控えめに座って、ちょっと後ろめたさを感じつつも、ささやかにしみじみして居る女性であったら、むしろ好感が持てるだろうし、まして是が年配の女性であれば、程好い佇まいで、さらりさり気無いのだろなぁ、と。*3
世の中何でもかんでも平等で、何でもかんでも堂々出張れば良い、と云うものでも無い気がするのだなぁ。何れにせよ。人も世間も。もっとやわらかに、軽やかにあれたら。どんなに風通し良く、心地良いことだろか。取留めも無く、ただぼんやりそんなことを想う。

*1:その一方で、容赦を得られることの多さも、重々承知はして居るが。

*2:それがかえって怪し気なのか(苦笑)。

*3:私自身は、体質で酒が一滴も呑めません。

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