双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

歩き続けた人

|本|


考える人 2009年 02月号 [雑誌]

考える人 2009年 02月号 [雑誌]


身の回りの雑多が一段落して、ようやく手に取る。
須賀敦子が最後に残した草稿。完成することの無かった物語。
年頃の娘の頃の、須賀さんの写真。意思の強い、快活な顔立ち。
そのふっくらした頬の輪郭には意外な程、華奢な肩や、
腕時計の巻かれた、ほっそりした手首。聡明で薄い口元。
ブラウスの襟などの端々に、自然と備わった品の良さが漂う。
その佇まいは歳月を経るごとに、円熟と深みを皺のよに重ねて
紡いだ言葉の一つ一つに、なめらかな手触りをもたらした。
そっと静かな余韻を残す、上質で、美しい言葉たち。
須賀さんはきっと、歩き続けることで見付けた人。

しっかりした靴を履いて、信仰に導かれて、修道院に籠もるのではなく道路に出て、日本からフランス、フランスからイタリア、そして日本に戻る、という長い道のりを歩き続ける。それが須賀敦子の人生だった。

彼女にとっての人生は、長い長い、巡礼の道のりを
歩き続けるよなもの、だったのかも知れないな、と想う。
須賀敦子と云う一人の女性が、ゆっくり、大切に
あたため、築いてきた、人生の欠片の集まり。
彼女の歩いたアルザスの風景は、書かれることの
無かった物語に、どんな道すじを刻んだのだろ・・・。

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