双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

歩く足

|雑記|

休みの日の掃除など、雑務を済ませてから外へ。
住まいから街場までは、ゆっくりの徒歩で約四十分。
余程の急ぎや、大きな荷物などの在る日でなければ、
大抵は歩いて移動することにして居るのだけれど、
道すがら、知り合いの運転する車と出会い、
「ホビちゃん、何こんな所歩いてんの。
街場に下がるんなら、乗っけてくよ!」
などとお声が掛かることもしばしば。けれども
そんなときは、丁重にお断りすることとして居る。
今日は幸い、知り合いの車と遭遇することも無く、
さかさかと自分のペースで歩いて、気持ちの良い
秋の冷えた空気を頬に受けながら。
途中、大通りからぐぐんと逸れて、静かな杉林の中を行く。
歩く先に目的が在る日も、特に無い日も。
歩いて居る間は、様々なことを考えたり、
普段は流してしまうよな、自身の内面と向き合ったり。
ふと目にした景色や事柄に、心を留めることも在る。
須賀さんの言葉のよに、自分にぴったり合う靴で、
どこまでも歩いてゆければ。自分の歩みで。しっかりと。
歩くことは、人となりと似て居る気がする。
他人の真似を纏って、まるで我がこととしてみても、
それはやっぱり、借り物の靴で巧妙に歩いて居るだけで、
結局はゆる過ぎたり。きつ過ぎたり。
ぎくしゃくぎこちない歩みになって、自分を見失う。
また、歩くことを端から億劫がる人も居る。
そんなことなど考えながら、途中景色を眺めやりする内、
街の毛糸屋に辿り着く。店のお婆さんはいつも、
「編み上がったら見せて頂戴な。」 と云うので、
この間買い求めた毛糸で編んだ、指無しの手袋を
「これが出来ましたよ。」と、見せてあげる。
大層喜んで、冬場はこんなのが便利だろうから、
私も同じのを編もうかしら。と、目を細めると、
私の右の手をとって、ゆっくりさすった。
毛糸を選びながらこっそりと、知れぬよにして、
散らかった棚の毛糸を整頓してあげるのが、
密かな愉しみだったりもするのだけれど、
今のところ未だ、お婆さんには気付かれて居ない。
羊毛にカシミアの入った、ツィード毛糸を手に取る。
紺色のと、茶色のと。それをかむった人の佇まいを、
其々ふと思い浮かべて、ふわりとした心地になった。

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