双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

|映画|


ソクーロフ 『ファザー、サン』 観る。
うすぼんやりとあたたかい蜂蜜色の鈍い光は、
人知れず静かに 「発酵」 しながら、瞼を通して
とくとくと、体内に流れ込んで来る。
ゆっくり。静かに。穏やかに。そして深い。
時代も場所も背景も、曖昧なままの物語。
父と息子の世界は濃密で、確かに閉じられては
居るけれど、暗闇の不安も眩暈の息苦しさも
そこには無く、むしろ、無意識のままに安堵の中へ
引き込まれたのに気付き、ふうっと気が遠のく。
或るときには、小さく開いた一枚の窓硝子を隔てて。
或るときには、仄暗い一枚のレントゲン写真を隔てて
取り交わされる、視線。視線は溶け合い、逸らされる。
夕暮れ刻なのだろか。坂道を軋んで進む路面電車
揺られながら 、互いの 「父親」 と云う、
共通の存在を介して心通わす、息子と息子。
「不思議な町だ。ここは過去みたいだ。」
現在に在って過去に在る街。そして、そこに在る者たち。
全てがあたたかな光の中に映し出される。
傾いた夕日が全てを包んで、輪郭をやわらかに溶かしてゆく。
嗚呼。何と美しいのだろ・・・。



決して苦手な訳では無いのに、悪酔いの毒気に当てられて、
タルコフスキーのよには、全てを委ね切ることができず、
何と無く、今まで敬遠しがちだったのだけれど。
ソクーロフ、ゴメンナサイ。


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