双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

霧の向うに

|日々|


雨上りの清々しさは、山裾の春霞の中に浮かぶよな
葉桜や新緑の黄緑と、常緑の色濃い緑とが溶け込んで、
胸のすく爽やかな空気。鼻から深々と胸一杯吸い込む。
先程までの雨粒を纏った、蕾と葉はきらきらと。
人も車もひっそり静か。ほんの束の間の忙しさを除けば、
殆どがのんびりとした印象のまま、午後が過ぎる。
汗ばむ陽気に窓を開け、気晴らしに、本の移動だの
本棚の模様替えなど少し。父が作業場より切ってきた、
大きな大きな薄桃色の牡丹の花は、今朝がたの雨粒を、
未だ纏ったまま、花瓶からすっくと首を伸ばして、
見目こそやわらかなのに、何処か凛とした佇まいを漂わす。
楚々としたちいさき花を好む私が、例外的に牡丹や芍薬
好むのは、彼女らは確かに華やかではあるけれど、
凛と品良く、美しさをおごらぬ、そんな佇まいに
惹かれるからなのかも知れない、などと想う。
夕刻になる頃、急に空気が冷えてくると、山の方から
降りてきた霧は、見る間に辺りを乳白色で覆ってしまう。
やがて重たい霧が音を吸い込み、光りを吸い込んで、
湿り気を帯びた夜は、ひっそり静かに更けてゆく。
薄明かりの部屋で、私は寝具を畳む。

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