双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

バス停のお手本

|着物|

先日、バス停で見掛けた年配の女性。
歳の頃七十代後半と云ったところの、
ちゃきっとした風情の小柄なお婆さん。
その、着物姿が何とも云えず良かった。
着込んで馴染んだ風合いの着物は、恐らく
結城紬だろか。鼠色がかった藤色の格子柄で、
襟元もゆるり、ざっくりと楽に着付けて居る。
これに芥子色の紬の帯を合わせたその様が、
普段着そのものと云った風で、実に良い具合。
そして何より私の目の行ったのは、短めに着付けた裾から
覗いた、草色にピンクの水玉模様の、足袋型ソックス!
是がまた下駄履きの足下にぴったりで、気負いの無い、
普段着の着物の何たるかを、実例でもって感じ入る。
若い着物世代に、足袋型ソックスは馴染みも在るが、
お歳を召した方の、何とまぁ、軽やかな発想か・・・。
確かに礼装など、きちんとした所へ出向く際の、緩い着付けや
省略は是、論外であるとして、普段の生活の中で着る着物は、
動き易いに越したことは無く、第一、自分で着て居て楽だとか、
愉しいと感じられなければ、あんな風にはゆかないと思う。
考えてみれば、普段着に白足袋は汚れが目立つし、それが
色柄ものの足袋型ソックスであれば、気軽に履ける上に、
汚れも気にせずに済む。それに、あの帯のこなれた感じ。
程好い具合にくったりして、きっと帯板を入れて居ないのだ。
普段から着物を着慣れた、こう云う年配の方が
「こんな着方で良いのだ」と、自ら洒落た手本を
示してくれるのは、我々若輩にとって有難いことである。
昨今の若い人の間で、襟元に伊達襟のよな、ヒラヒラの
レースをくっつけたり、帯回りにアクセサリや紐を、
ぐるぐるジャラジャラ巻き付けたり・・・と云うよな、
無粋でおかしな着方が、晴れ着・普段着問わず、どうやら
流行って居るみたいだけれど、ああ云う類のを私は好かない。
若い人が着物に興味を持つのは、大変結構なことだのに、
着物業界だの雑誌だのが、無責任な提案などで煽るせいで、
ああ云う無粋が巷に氾濫するのは、何とも残念で仕方がない。
云い訳など要らぬ。着物はただの着物で良いではないか。
バス停のお婆さんのよに、着物のいろはを知った人の
着こなしや崩しは、決して、逸脱を良しとしないものだ。

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