双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

嫁ぐひとへ

|本|

Sちゃん


三人きょうだいの末っ子で、皆に構われてピーピー泣きながらも、
負けん気が強くて、いちばんしっかり者だったあなたが、
気が付けばもう、お嫁にゆく年頃になったのですね。
私にとっては、従妹と云うよりも七つ下の妹のよで、
かつてのあの、花柄のスカートをはいた小さな子が、今では
こんなに素敵な女性になって、共に暮らす伴侶を得、
そして、一つの家庭を持つと云うことは、どんなに嬉しいことでしょう。
あなたには、あなたの背筋のよに、ぴんとしっかり通った一本の芯が在り、
しっかりと地に着いた二本の足のよな、揺らぎ無い心が在ります。
それらはあなたが小さい頃から、変わることの無かったもの。
どうぞ、これから先もずっと、大切にしていって下さい。
そして、目先の物事に捕われず、心豊かに暮らして下さい。
世の中には、どんなに沢山のお金や物に囲まれて居ても、
心貧しく、心満たされぬ人が大勢居ます。
毎日を疎かにせず、日々の中の些細を大切にしながら、
どうぞ、丁寧に暮らして下さい。
皆からお祝いの品々に、きっと、素敵な食器や生活雑貨を頂くでしょうね。
私の贈る、この小さな一冊の本が、素敵な食器や雑貨のよに、
二人の新しい食卓に、華やかな彩りを添えることはありません。
ただ、ふとした折に、思い出して開いてみてくれたらと思います。
そこに書かれた何れかの詩の一片が、あなたの励みになり、支えになり、
ときにはあなたを叱り、何かの助けとなるかも知れません。
今はぴんとは来ないものでも、いずれあなたが歳をとってから、
ああ、そうだった、と思うことがあるかも知れません。
どうぞこれからも、凛とした、姿勢の良い素敵な女性で居て下さい。
妻となり、やがて母となっても、心の芯の変わらぬよに・・・。

茨木のり子詩集 (現代詩文庫 第 1期20)

茨木のり子詩集 (現代詩文庫 第 1期20)

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