双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

アメリカの友人

|徒然| |回想|

先日いつものよにPCを立ち上げると、現在はロンドンに住まうアメリカの友人より、暫くぶりのメールが届いて居た。ロンドンに越してから結婚した話は以前に聞いて居たけれど、今では既に一児の父となり、なんと来月の末頃、 Farrahと云うバンドのドラマーとして日本に来るのだと云う。突然の知らせに驚いたのは勿論、うわぁ、良いバンドに入ったなぁ、と何だか身内のことのよに嬉しくなる。
その昔、テキサス州オースチンに住んで居た友人Dは、熱心な音楽ファンならその名を耳にしたことがあるだろか。Cotton Matherと云う、音楽の良心のよなバンドの二代目のドラマーだった。私が当時オースチンに旅した折には、あれやこれや、随分と親身に面倒を見てくれたもので、少し歳が離れて居たから、友人と云うよか、親戚の若い叔父さんと云う気もして。バンドの他、カメラマンのアシスタントやら、バーテンの仕事やらに加え、元来の面倒見の良い性格から、方々あれこれと頼まれごとも多く、いつも多忙な筈だったろうに、そんな風情はちいとも見せず、おおらかで細かな気配りのできる人だった。ポンコツだよ、と口にはしながらも、年代物の渋いキャデラックを心密かに自慢に思って居て、私もこの車に乗るのが好きだった。今でも、オースチンで過ごした懐かしい記憶を思いかえす度に、故郷を想うよな心持ちになる。あの街での記憶がどれも皆、良い想い出ばかりなのは、何故だろう。生まれ育った訳でも無いのに、そんな心持ちにさせる街は、本当に数少ない。
以来、滅多に逢うことが無くなっても、毎年クリスマス・カードを欠かさずに送ってくれる、懐かしい友人は、すっかりロンドンの人となって久しい。もし今度逢えるとなると、かれこれ約十年ぶりの再会となるのだけれど、何とも残念なことに、どうやら私は都合をつけられそにない。行けないとなったら、やはりがっかりするのだろなぁ、などと考えあぐねて数日。再びメールが届いた。近況の詳細に加えて、最後に。
「君には君の生活が在って、色々と忙しいのだろうから、もし来られなかったからと云って、絶対に気に病まないように!それは充分承知して居るから、大丈夫。大丈夫。」
そうだった。この人は、そう云う人だった。

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