双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

留守にします

|日々| |音|


三日続きの休みの後は、丸一日がぽっかり空いて、
寒々しい曇り空は、秋と冬の間を行き来する。
午後三時をまわった頃。ドアに小さな張り紙貼って。
「四時半まで留守にします」
三人して、観光ピークの終わった秋の渓谷へ。
散策道手前の駐車場は、がらんとして居て、
他県ナンバーの乗用車が一台だけ。
先週までは出て居た筈の売店の姿も消え、
こんな静寂で渓谷を歩くことに安堵する。
吊り橋の近くまでやってくると、盛りの時期の賑わい
とはほど遠い、僅かな人びととすれ違う。
写真愛好家のおじさん。山登り姿の老夫婦。
ふと、路肩に若い男女の姿が目に入る。
ミニスカートにヒールの高いブーツ、と云う
凡そ、渓谷歩きに不釣合いななりをした女性が、
寒いだの足が痛いだのと、男性に文句を云って居る。
そりゃそうだろさ。思慮の浅い風としか思えぬ様を、
ちらと見やり、前を歩く老夫婦と同じ速度で、
ゆっくりと。たわんで揺れる木の吊り橋を渡る。
渡り終えると、大概の人は皆折り返してしまうが、
その先にも暫く、渓谷の散策道が続いて居るので、
私たちは居り返さずに、そのまま歩いて先へゆく。
ひんやり冷たい空気は、鼻腔をくすぐって体の隅々まで。
灰色の雲に遮られた心もとない光は、森に薄暗く、
じきに帳の降りることをほのめかす。
やがて開けてくると、静かな散策も終わり。
渓流沿いを下り坂で戻りながら、路肩に積もった落ち葉を
かさと踏みしめるうち、見慣れた車の止まった場所へ。
付近の農家の人だろか。荷台に僅かの大根を積んだ
軽トラックが一台。ゆるやかに坂を下って行った。

[火曜日の一枚]

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