双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

ノスタルジアと秋の空

|回想|

子供の頃。毎年夏休みになると、母の妹である
叔母の所へ良く泊りに行った。家から四駅。
一人で電車に乗って。いっぱしの一人旅気分で。
叔母の家より歩いてすぐの場所に、こじんまりした
市民プールが在って、叔母と私、八つ下の小さな
従兄弟と三人で、ちょくちょく泳ぎに出掛けたものだ。
プールへ行くときには、叔母がお弁当を拵えてくれて、
俵型のおむすびだのに混じって、必ず入って居たのが、
ジャガイモのフライだった。ジャガイモを四つ切りに。
パン粉まぶして油で揚げて、オーロラソースなるものを
つけて食べたのだけれど、私は叔母のお弁当の中でも、
このフライが一等好きだった。そして今日の夕暮れ刻。
どうした訳だか、ふと記憶の奥底より、それがひょっこり
顔を出したものだから、何とも懐かしい気持ちで
一杯になって、思い出し思い出し、自分で拵えてみた。
揚げたてのを、ふうふう云いながら一つ食べると、
嗚呼、これだ。この味だ。と確かに思う一方で、
おや?何かがちと違う、とも思う。ふむ。
やっぱりあれは、お弁当だったからこそ、なのではなかろか。
お弁当は出掛けた先で、外で食べるからこそなのであり、
皿の上に盛ったのを、室内で、テーブルの上で食べたとて、
決して同じ風には、ならないのかも知れない。



人も車も、何処かへ引っ込んでしまったのか。
実に静かとなった土曜日は、薄曇りの空の色と空気が、
もうすっかり秋の佇まいで、季節がようやっと
季節どおりとなったことを、言葉少なに知らせてくれた。

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