双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

家族の食卓

|本|


グアテマラの弟

グアテマラの弟


女優としてもそうだけれど、片桐はいりと云う人は、
その文章にもまた、独特のリズムと匂いを持って居る。
感傷にべったりするを避け、俯瞰の目でもって、
しかしながら、慈愛に満ちた観察眼は、あくまで
滑稽を装いつつも、悲哀やしんみりを描き出す。
縁在ってグアテマラの人となった、年子の弟。
常に動いて居る母親。癌で亡くなった父親。
グアテマラと東京、弟にとっての二つの家族。
はいり氏はひょんな経緯で、初めて弟を訪ねてから
十三年後に、再びグアテマラの地を踏む。
血の繋がりの無い甥っ子。その甥っ子の子供時代に
そっくりの、落第小学生。弟の姉さん女房。
街角の名物物乞いオヤジ。肉屋のオバちゃん。
血の繋がらぬ家族と、血の繋がった家族。
私は日頃から、小説であれ映画でであれ、
家族や近しい人々が、皆で一つの食卓を囲んで
食事をする光景に、何故だか心惹かれる。
それが和やかであっても、静かであっても、
騒々しくても、いがみ合って居ても。
この話にも勿論、度々食卓の光景が書かれて居り、
私はつい、その食卓を頭に思い描いてしまう。
人生は苦いから、せめて珈琲だけでも甘くしないと。
弟の姉さん女房の言葉が、心の隅っこに残った。
とは云え、私は砂糖を入れぬのだけれど…。

<