双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

Do you believe in magic ?

|音|


月曜日の渋谷宇田川町某所。若かりし頃に散々通い、想い出の沢山詰まったこの場所を私は恐らく七年ぶりで訪れた。思春期同盟の盟友Tちゃん、Aちゃんと連れ立って、もうかれこれ十数年来、私たちがずっと焦がれて止まなかった一人の天才魔術師と再会するために。彼の名は、ロジャー・ジョセフ・マニングJr 。ジェリーフィッシュを率いて居た頃からずっと、彼は私たちの ”番長”だったのだよなぁ。


『君は魔法を信じる?』


魔法使いは歳をとらない、のか否か。昔と比べてちいとも変わらぬ(多少贔屓目)彼がステージに現れ、その指先が鍵盤に触れた瞬間。殺風景で変哲の無い、見慣れた筈の四角い空間が、見る見る間に虹色で包まれ、キラキラと光り輝く夜の遊園地へと姿を変える。其処に居合わせた妙齢の大人たちは皆、思春期のティーンネイジャー、或いは子供へと戻ってゆく。次々に現れるのは、変幻自在の、めくるめく幻想。箱型のローラーコースターや観覧車。チョコレート、マシュマロ、ペパミント・キャンディ。心に願うものなら何にでも。ロジャーの奏でる音楽の魔法は、甘く切ない過ぎ去りし日々を手繰り寄せ、優しいノスタルジイの匂いと共に、私たちを夢の世界へと連れ去ってゆく。嗚呼。どうかこのまま、この魔法が消えてしまいませんように。けれども、夢の時間はあっと云う間に過ぎてしまうので、甘いお菓子でお腹がいっぱいになった少年少女が、それでも 「お家に帰りたくない。」 と駄々をこね出すと、彼は静かに子守唄を歌い出す。


さあ、眠い目をとじて
しっかりクマさんを抱くんだ
恐いこともすぐに消えてなくなるよ
その赤い風船が飛び立つとき…


目が覚めて気が付くと、遊園地はその余韻だけを残して、跡形も無く消え去り、少年少女たちは元の大人の姿に戻ってしまった。あんなに素敵な夢を見た後で、ちっとも冴えない日々へと戻るのは、余りにも遣る瀬無いけれど、この夜をそっと胸に仕舞って、時々思い出せば良いさ。名残り惜しさと切なさに後ろ髪を引かれながら、この夜いちばんのプレゼントだった、ジェリーフィッシュの『The king is half-undressed』について話が及んでは、再びほろりと涙ぐみ、永遠の思春期をいつ終わるとも無く語り合う内、私たちは、人っ気の無い真夜中の大通りを歩きながら、誰からと示し合わせた訳でもないのに、同じ歌を口ずさんで居る。

Yeah I wish it would rain upon my head
And hide this trail of tears I shed
Yeah I wish it would rain upon my head
I'm better off alone at home


Yeah I wish it would rain upon my head
Then I could spent all day in bed
Yeah I wish it would rain upon my head
'Til the sun shine my way…

雨よ降れ、そうすれば
涙の跡を隠せるかもしれない
雨よ降れ、だって
僕はひとりぼっちが好きだから
雨よ降れ、そうすれば
一日中寝ころんで過ごせる
雨よ降れ、いつか
太陽が僕を照らすまで…


汚れ無きイマジネーションの世界へ、ようこそ。

Solid State Warrior

Solid State Warrior

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