双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

駈け足西荻日記

|散策|


週に一度の休みの日。珍しく早起きした上、きちりとめかし込んで、さて。一体、何処へゆく?休みの早起きも厭わず、普段は滅多につけぬ紅など差し、乙女宜しく身支度して出掛けた、本日月曜日。高速バスに揺られ、中央線に揺られ、彼の地、西荻へと行って参った次第。
と申しますのも、鳩山郁子女史ら数名の作品などを展示・販売する、月兎社主宰の催し『リモネア・アクト4』へ足を運ぶために他ならず。
鳩山女史お手製の、コンセプト・ボックス『ニオラの黒い騎士』とは果たして、如何なる秀作なのかしら。


乗車したバスが、予定より随分早く到着したもので、動き出すのがゆっくりな西荻の街を、当て所無くぶらり散策。途中で見付けた喫茶店で、小休止など。が、店を出るとすぐ近くの通りに『どんぐり舎』が在ったことを知る。嗚呼。何故もっと早く、気付かなかったのか…。
北と南をてくてくと、行きつ戻りつする内にやっとこ、十二時を廻ったので『物豆奇』へ。かちこち柱時計の刻む、振り子の音、音量の心地良い、ジャズの調べと共にマンデリンを一杯。お店の雰囲気からして何と無く、焙煎深めの珈琲なのかしら?と今まで、思い続けて居たのだけれどその実、まろやかながら、あっさりとして非常に、好みの塩梅の珈琲でありました。こんな喫茶店が、近所に在ったならさぞや、素敵だろな。
暫し寛いだ後、会場の『ギャラリーMADO』へ。道すがら、久しく感じたことの無い、そわそわと緊張が同時にに押し寄せる。先生がいらっしゃったらどうしよう…など、ぶつぶつ独り言ちながら歩く内、間も無く、会場へと到着してしまう。時計の針は、一時を少しばかり廻った頃。開場のギャラリーは、駅から歩いてすぐの住宅街の中に在り、さわさわと木立に囲まれた、瀟洒な佇まいの、古い洋館と思しき建物。入り口を入ると、靴を脱いで上がるよで、展示スペエスは、約二坪程だろか。こじんまりとして、何処かしら懐かしい。観覧中のお客さんが一人と、関係者らしき女性が一人、品物を並べたり準備をして居る。がふと、その女性を見て、私は思う。「こっ、この方が先生に違いない…」
その女性はまるで『シューメイカー』のユウコ嬢がそのまま、紙の作品の中から抜け出てきたよな、そんな佇まい。
加えて、展示物はどれもこれも皆、繊細で素敵なものばかり。胸がどきどきする。欲しいものは色々在ったのだけれど、その中から手刷りのカードなど数点と、件のボックスを手に取り、カウンターヘおずおずと。
「は、鳩山先生でらっしゃいますよね?」「はい、そうです。有難う御座います」ピンセットで一枚一枚、丁寧にシールを剥す鳩山女史は、実に聡明で、実にかあいらしい方。「時間かかってごめんなさい。不慣れなもので」余りに緊張し過ぎて、今となってはもう、一体何をどうお話したのやら、全く思い出せない始末。ちいちゃな紙コップで、お茶を出して頂いたのをおかしな汗などかきつつ、ごくっと飲んで居たら、次々と、お客さんが入り出したもので、何故か咄嗟に「スリッパが足らなくなる」との思いが脳裏を過り(笑)、十五分程の訪問で
会場を後にした。
駅へと向う間も、ずっとどきどきは収まらず、廻りに誰も居ないのを確認してから、独り声に出して「はぁ〜っ。」と溜息を。途端に体から、緊張が解けてゆく。ほっとしたら、何だかお腹が減ってきて、そのまま『ダンテ』へ向い、軽食を頂いた。落ち着いたところで、しみじみ考えれば、もう少し、じっくり拝覧する時間は在ったろうに。次の機会はきっと…。

[本日の珈琲日記]

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