双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

ここでなければどこへでも

|雑記| |音|


頬に触れ、首元を通りすぎる空気が
ひんやり、冷たさを帯びてくる頃になると、
私の手は、無意識に上着のポッケを探す。
この癖に気付いたのは、人より指摘されて
の事では無く、いつだったか
改めて、道ゆく人々の歩く姿に
目を向けた折、ポッケに手を入れて居る人の
意外に少ないのを、知ってからかも知れない。
私は、カーディガンであれ、コートであれ、
仕事着のうわっぱりであれ、其処に
ポッケが付いて居たならば、大抵は
その中へ、手を納めて歩いて居る。
ふむ。何故だろか?
いつもの習慣から、つい上着の両脇へ
手をやった時に、それがたまたま、ポッケの
付いて居らぬ上着であった事に
気付いて、途端、がっかりもしたり。
収まるべき場所に、収まるべきものが収まる。
其処で私の感ずるのは、言葉からは
遠く離れた、無言の安堵。
見知らぬ場所や、初めての道など
一人歩く時、良く知った感触の
ポッケの中へとひとたび、己が手を
滑り込ませれば、間も無く安堵は訪れる。
所在無く、宙をさまよい揺れる
甘ったれの両の手は、
いつでも何処でも、冬の居場所を
探して居るのだろか。


[本日の私的珈琲と音楽]

  • リントン・マンデリン

Gideon Gaye

Gideon Gaye


この節になれば、いつも手に取る。
この音は、冬の音。
鉛色の空の音。

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