双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

剣菱の日参

|猫随想|


件のへんてこ模様の黒白野良(以下”剣菱”)であるが、
ここ二週間程の間、店の裏手に日参して来て居る。
初めのうちこそ、細道を隔てた隣家の塀の上で
香箱なんぞ組み、こちらの様子を覗って居たのが、
我々の”ゆっくりまばたき”*1にも、同じく
”ゆっくりまばたき”で応じてくれるよになって、
野良なりに慣れてきたと想われるものの、やはり
そこは野良だけあって、相変わらず警戒心は強い。
差し出した手に対しての「シャー」は勿論のこと、
近寄ればささと身を隠すなど、距離は容易に縮まらない。
それが、つい先週のこと。
いつもは裏手に整えた給餌場で、決まった時刻に
給餌をして居る訳だけれども、その日は軒下まで
ちょろちょろとやって来たので、割り箸でカリカリを
つまんだのを試しにそっと差し出したところ、何と。
割り箸の先から、じかに是を口にしたのであった。
しかしながら、その直後に見せた顔と云うのが、
まさに「はっ、しまった!うっかり心を許し過ぎた!」
と云った風だもので、さすがに可笑しかった。


剣菱は餌を食べ終えると、隣家の塀の上や
我々の軒下で暫し憩い、気付けば何処かへ消えてゆく。
もしものことを考え、給餌場の横へダンボール箱
ねぐらを拵えてあるが、使った形跡は未だ無いので、
何処か近辺へ、人目につき難いねぐらでも在るのか。
人との距離の取り方や行動から察するに、
野良猫であることは、ほぼ間違いが無かろうし、
恐らくは雌なので、発情期となればやがて子を宿そう。
剣菱へ避妊手術を施すことは、果たして可能だろか。
生憎、周辺地域に保護団体などは皆無で、
協力は望めぬから、そうなれば”一人TNR活動”だ。
できればリリースよりも家猫となるのが望ましいが、
拙宅は手狭故、既に二匹で定員オーバーである。
最善は里親を募り安住の地を探してやること。
それには先ず、何よりも人馴れしてくれねば...。


期せずして、剣菱と出会ってからと云うもの、
ずっとそんなことを考えて過ごして居る。

*1:相手の眼を見ながら、両の瞼をゆっくりと閉じるこの動作、猫界では「敵意はありませんよ」或いは「信頼してますよ」の意、なのらしい。

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