双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

趣味

|若旦那|


そろそろ生後一年を迎えようかと云う頃になって、次々と困った行いの発覚する、ピピンの若旦那。今度は何事かと申せば、”サンダル齧り(及び、食い)”である。
以前より主の目を盗み、シリコンブラシの角を齧って、是を飲み込む。或いは、スニーカーの靴底を齧るなどの前科が先ず在り、そしてこの度のサンダルへと至った訳だが、こうして書き並べてみると、どうやらシリコンだのゴムだの圧縮ウレタンだの。ああ云う、弾力の在る、しっかりとした噛み応えの素材に限ってのことらしい。
被害にあったサンダルは物干し場用で、常時ベランダに置いてあるものなのだけれども、これまでは何ら、興味の在る素振りすら見せずに居ったのが、前科対策として棚にぶら下げておいたシリコンブラシを抽斗へ仕舞い、玄関のタタキから靴の放置を撤去し下駄箱へ仕舞い、これらをカミカミガジガジ出来ぬよになったことで、矛先がこの、圧縮ウレタン素材のサンダルへと移った模様。専門家の話によれば、こうした食品以外のモノを齧ったり、或いは食べてしまうと云う行いには、幾つかの理由が在るのらしい。先ず一つには、特に保護された子猫などに多い、早期離乳によるもの。このケースだと、俗にウールサッキングと呼ばれるよに、タオルだとかセーターだとかの、主に繊維質の品がモミモミ、チュウチュウの被害となる。又一つには、不安や寂しさなどの精神的不安定を原因とするもの。そして又一つには、所謂”趣味”として単純に是を好む、と云うもの。
ふむ。前の二つに関しては、どうも若旦那には当てはまらぬのではないかしら、と想う。確かに若旦那は、随分と早い内に母猫を失ったことで満足に母乳すら飲めず、更に兄弟猫を飢餓で失うと云う、過酷な状況の下で数ヶ月を過ごした訳だが、こうした境遇の子猫らに多く見られるウールサッキング行為はおろか、猫なら誰しもが行なう”モミモミ”ですら、今まで一度も目にしたことが無い。それに年がら年中、暇さえ在れば構ってやって居る上、元来が天下泰平気質の奴なので、精神的不安定などとは縁の無い快活な猫である。となると、やはり最後に残った”趣味”しか在るまい。現に、奴の好む標的には、前述のよなテクスチャの共通点が在り、犬遊び、スーパーボール転がし、エプロンの紐追いかけ、スニーカーの紐解き、異物の水鉢落とし、厠シンクロニシティ、網戸クライミング、カーテンレール懸垂、ザック連山縦走、クロちゃん飴と鞭、等々。実に多彩な趣味を持つ”多趣味猫”であることを考えると、ははあん、成る程。と納得ができよう。
しかしながら、そうかそうか。趣味なら仕方が在るまい、などと納得ばかりもして居られない。何故と云うと、ガジガジやられるだけなら目を瞑ることも已む無し、として(まぁ、是だって十分困るけれど)、ガジガジの末に是を飲み込む、なんてのは当然体に宜しい筈が無く、下手をすれば、大きな命の危険を伴うことともなる。幸い、シリコンブラシのときには、翌日、翌々日と糞へ混じって自然に排出されたので良かったが、サンダルはなかなか豪勢に齧ったもので、あと数日の間は、割り箸片手の糞調べが日課となりそうである。溜息。


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未だ新しいと云うのに、見るも無残なサンダル被害。齧るだけならまだしも、明らかに腹の中へ収まってしまって居るから、さすがにさて置けぬのである。





あのね、サンダルをボロにしたことを云って居るのではないのですヨ。しかしながら、シャッと見舞われた爪の一撃。若旦那の身を心底案じるからこその、愛の叱責に対する返答が、実に是であるとは・・・。主は哀しいぞ。







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しかしまぁ何だ。お前、かあいい顔だねぇ。

分かって居るのか、居ないのか・・・。まったく無邪気なものよ。

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