双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

タマの事情

|若旦那|



早いもので、若旦那もそろそろ去勢手術の時期である。しかし、目下の心配事がひとつ。実のところ、通常であれば二つ仲良く並んで居る筈の睾丸だが、若旦那の場合、片方しか降りて来て居らず「停留睾丸」とやらの疑い、非常に色濃いのだ。
停留睾丸とは何ぞや。簡単に申せば、子猫の成長に連れ、睾丸は通常腹の中から徐々に下りて来て、結果的に其々左右の小ちゃな袋の中へ収まる筈のものであるのが、はて。タマの気紛れか、はたまた意固地かは知らねど、是がその道中の何処かへ留まったまま、とうとう袋まで下りて来ず終い、と。停留が片方の場合も在れば、両方の場合も在り、若旦那がもしそうだとすると、前者と云うことになろうか。所謂、劣性遺伝のひとつで、猫に於いては中々稀なケースであるらしい。何にしろ、できれば只の思い過ごし、気の所為であって欲しいものと想うが、そもそも真偽の知れぬものを、ひとり勝手にあれこれ巡らしたところで埒が明かないので、去勢手術の相談のため、月末近くにお医者へ出向く予定であったのを、少々予定を早めて診せに行くこととした。
いつもなら誰かの車に乗せて貰うのが、今回は初めてバスと電車を乗り継ぎ、其処へ少々の徒歩も加えて出掛けたものだから、外出に慣れない若旦那には、ちいと気の毒であったかも知れぬ。道中鳴きもせず、只じいと身を硬くして、余程緊張して居たのだろ。到着して診察台へ乗せると、強張って足の裏へじっとり汗をかいて居る。目方を量れば、実に3.10キロ。永久歯も全てきれいに生え揃った、とのこと。
さて。いよいよ件の疑いを相談すると、先生、ふむふむと若旦那の睾丸、下腹の辺りを慎重に探り始め、やがて右足の付け根の辺りで、一旦手を止める。暫し探りを続けて曰く。「うん、やはり右側は停留睾丸でしょう。この足の付け根の一寸下の辺りかな。」ふむ。タマの方とすれば、何か個人的に譲れぬ事情が在っての居座りかも知れぬが、こちらにしてみれば、甚だ迷惑な事情である。素直に袋へ入りゃ良いものを・・・。
神妙な面持ちで主の肩へ前足をかける猫。俯いて深い溜息をもらす主。すると先生は心中察して下さったか。「大丈夫、大丈夫。心配は無いですヨ。二箇所を切ることになると思いますが、ちゃんと取れますからね。」心強いお言葉を頂戴し、おおまかな手術の方法や内容などを聞いた後、翌月曜に手術をお願いした次第。今日は大変良く辛抱したので、帰宅後は、特別に褒美のおやつなどやる。おい、来週は大仕事だぞ。

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